住宅費が高い場所と聞けば、香港やシンガポール、シドニーを思い浮かべる人が多いだろう。ところが英誌エコノミストの分析によると、収入に対して「家賃や住宅費が重すぎる」と感じている人が世界で最も多いのは、そうした大都市ではなくアジアの中所得・低所得国だという。そしてタイは、その世界の上位に名を連ねている。
タイ人の4割が「住宅費を払えない」
米調査会社ギャラップが2025年に約140か国で行った世論調査では、「過去1年で住宅費の支払いに困ったことがあるか」を尋ねている。割合が最も高かったのはフィリピンの55%で、スリランカ54%、ミャンマー49%と続き、タイは40%で世界の上位に入った。その後にバングラデシュ、インド、韓国、ネパール、インドネシア、中国が並ぶ。
豊かな都市は住宅価格そのものは高くても、所得も高く、支援制度も整っている。一方、所得が低い国では、住宅価格が世界水準では高くなくても、一般的な給料と比べると手が届かない。タイはまさに、住宅費に強いストレスを感じる人が世界で最も多いグループに入っているのだ。
なぜ「バンコクの家は高い」と感じるのか
理由はバンコクのコンドミニアムが世界一高いからではない。問題は、収入と住宅価格の差である。2025年には、収入に対する家賃の負担がバンコクで世界的にも重いとする報告があり、一般的な世帯が収入のおよそ80%を家賃に充てているとされた。負担の軽い都市では20〜25%ほどにとどまる。
この数字は、バンコクの家賃が世界一高いという意味ではない。バンコクの平均的な給料が、シンガポールのような豊かなアジアのハブや欧米の都市に比べて大幅に低いことを映している。
給料2万8,600バーツ、都心の物件は1平米19万5,000バーツ
独ドイツ銀行の2025年の調査「Mapping the World's Prices」も同じ傾向を示す。タイ人の平均手取り月収はおよそ2万8,600バーツ(約14万円)。一方で都心のアパート購入価格は1平方メートルあたり約19万5,000バーツ(約95万円)に達する。収入は世界の下位に沈むのに、住宅価格は中位という、ちぐはぐな組み合わせが、家を買うことを難しくしている。
実際の市場でもこれは裏づけられている。タイの不動産情報センター(REIC)によると、2025年第3四半期、300万バーツ未満の住宅向け住宅ローンの否決率はおよそ40%に跳ね上がった。家計債務が高く、購買力が弱まるなか、中間層から低所得層が融資を受けにくくなっている様子がうかがえる。
物価より「賃金が追いつかない」問題
タイが住宅負担の重さで世界の上位に入る最大の理由は、住宅が世界一高いからではなく、一般の人の収入が住宅価格の上昇に追いついていないことにある。タイで暮らしを考える日本人にとっても、「物価が安い国」という印象だけでは見えにくい一面である。現地の給与水準と住居費のバランスは、長期滞在や移住を検討するうえで押さえておきたい現実といえる。
