バンコクの有名寺院ワットポーで、賽銭箱から現金を盗んだとして警備員の男が逮捕された。男は寺の塀を乗り越え、布で頭を覆ったうえで、自分の姿が見えなくなるという「呪文」を唱えてから犯行に及んだとされる。しかし、その姿は防犯カメラにしっかりと記録されており、呪文もむなしく逮捕に至った。
警察によると、男は警備員として働いていた。ワットポーの塀をよじ登って敷地に侵入し、頭から布をかぶって顔を隠した。そのうえで、姿を消せると信じる呪文を唱え、賽銭箱に手をかけたという。本人は呪文によって誰にも見られないと思い込んでいたとみられる。
だが、現実はそう甘くなかった。境内に設置された防犯カメラが、塀を越え、布をかぶり、賽銭箱に近づく一部始終を克明に捉えていた。映像をもとに警察が捜査を進め、男の身元が特定されて逮捕につながった。姿を消すはずの呪文を信じた本人にとっては、皮肉な結末となった。
ワットポーは、巨大な寝釈迦仏で知られるバンコク有数の観光寺院であり、タイ古式マッサージの総本山としても名高い。王宮にも近く、連日、国内外から多くの参拝者や観光客が訪れ、賽銭箱には多くの喜捨が集まる。それだけに、賽銭を狙った窃盗は各地の寺院にとって悩みの種であり、防犯カメラの設置が進められてきた。
タイでは、護符やお守り、サクヤンと呼ばれる刺青、そして呪文といった民間信仰が今も生活に根づいており、身を守ったり願いをかなえたりする力があると信じる人は少なくない。ときに、こうした力を頼って大胆な行動に出る者もいるが、当然ながら証拠の前ではなんの効力も持たない。今回の男も、「見えなくなる呪文」の力を本気で信じていたのかもしれない。だが、信仰の力も最新の防犯カメラの前では通用しなかった。寺の賽銭に手を出せば、呪文があろうとなかろうと、いずれ罪は明るみに出るということだろう。