カンボジアを拠点に日本人を狙う特殊詐欺グループを率いていたとして、暴力団関係者とされる菅原孝文容疑者(31)が、バンコクのスワンナプーム空港で逮捕された。搭乗手続きの直前に身柄を確保されたもので、グループは2024年だけで40件以上の詐欺を働き、被害総額は約2億バーツ(約10億円)に上るとされる。日本の警察当局とタイ警察が連携した国際捜査の成果である。
スワンナプーム空港で出国直前に逮捕
タイ捜査当局によると、菅原容疑者が拘束されたのは6月7日の日曜夜6時半ごろ。マレーシアへ向かう航空便のチェックインカウンターで搭乗手続きをしていたところを、タイ中央捜査局(CIB)と入国管理局が取り押さえた。
逮捕に至る端緒は日本側からの情報提供だった。日本の対策機関がタイ当局と情報を共有し、在タイ日本大使館も通報。容疑者が資金の隠し先とされる国へ逃亡しようとしている兆候をつかんだタイ当局が、空港に捜査員を張り込ませていた。あと一歩で出国を許すところだった。
NTTや警察をかたる3段階の手口
グループの詐欺は緻密に組み立てられていた。まず自動音声で日本の大手通信会社NTTを名乗り、通信サービスが停止されると警告する。電話を受けた相手が問い合わせると、オペレーターが本人確認と称して個人情報を聞き出す。
次の段階で、警察官や検察官になりすました別の人物に電話を回す。そして「あなたの銀行口座が暴力団の資金洗浄に使われている」「捜査のため資金を指定の口座に移す必要がある」と告げ、送金させる。NTTのような誰もが知る企業名と、警察・検察という公的な肩書きを重ねることで相手の警戒を解き、冷静な判断を奪うのが狙いだ。被害者は身に覚えのない犯罪に巻き込まれたと信じ込み、口座の金を振り込んでしまう。この手口で2024年だけで少なくとも40人がだまされ、被害は約10億円に達したとされる。
求人を装い日本人をプノンペンへ
このグループは、詐欺の実行役そのものも日本人をだまして集めていた。好条件の求人を装って応募者を誘い、航空券を用意してカンボジアの首都プノンペンへ渡航させる。現地に着いた被害者は、そのまま詐欺拠点で働くことを強いられたという。だます側とだまされる側の双方が日本人という構図は、近年タイやカンボジアで相次ぐ特殊詐欺の縮図といえる。
タイ当局は菅原容疑者の日本への強制送還に向けた手続きを進めている。メコン地域ではミャンマーやカンボジアの国境地帯に大規模な詐欺拠点が集中し、日本人を含む各国の市民が電話やSNSを通じて標的にされてきた。被害額の大きさと組織の巧妙さから、タイと日本、周辺国は容疑者の引き渡しや国境取締りで連携を強めている。タイでも6月6日に、日本人を狙う別の詐欺コールセンターの首謀者とされる日本人の男がバンコクで逮捕されたばかりで(関連記事:日本人の詐欺コールセンター首謀者をバンコクで逮捕)、タイは日本人が絡む特殊詐欺の摘発が続く舞台になっている。