タイで6月11日、長らく宙に浮いていた2026年サッカーワールドカップの放映権問題が、開幕のわずか数時間前に決着した。通信大手ジャスミン・インターナショナル(JAS)が独占放映権を獲得し、全104試合をタイ国内で合法的に視聴できる体制が整った。東南アジアで唯一、放映権が決まらないまま開幕を迎えるのではと懸念されていたが、土壇場で回避された格好だ。
開幕直前まで続いた放映権の綱引き
カナダ、メキシコ、アメリカの3カ国共催で開かれる今大会で、タイは長く放映権の交渉が難航していた。近隣の東南アジア諸国が次々と契約を済ませるなか、タイだけが取り残され、テレビ画面が暗転する「ブラックアウト」への不安が高まっていた。 6月9日の時点では、JASが放映権を確保したとの報道をJAS自身が否定し、交渉はなお続いているとされていた。ところが開幕を数時間後に控えた6月11日、一転して正式契約が発表される。発表が取締役会の承認前に出たとして、タイ証券取引所(SET)は一時、JAS株の売買を停止する措置まで取った。それだけ市場の注目度が高い案件だった。
約112億円、2030年大会まで含む大型契約
契約額はおよそ7,000万ドル、タイの通貨でおよそ23億バーツ(約112億円)とされる。対象は2026年大会だけでなく2030年大会、さらにそれまでに開かれるFIFA主催の各種大会にも及ぶ、複数年の包括契約だ。 2026年大会は出場枠が48チームに拡大された初の大会で、試合数は過去最多の104にのぼる。これまでのワールドカップが64試合だったことを思えば、中継する側が抱える枠も負担も大きく膨らんだ。これだけの試合数を一手に押さえる契約は、タイにとっても決して小さな投資ではない。
無料放送とMonomax、2つの見方
気になる視聴方法は大きく2通りに分かれる。 ひとつは無料の地上波放送だ。JASと組むMONOグループのチャンネル29(Mono29)で、少なくとも1日1試合が無料で中継される見込みで、開幕戦と決勝を含むおよそ半分の試合が地上波で見られるとされる。お金をかけずに主要な試合だけ追いたい層には、これで十分だろう。 もうひとつは配信サービスのMonomaxである。全104試合はMonomax(monomax.me)とMonomax Sportsチャンネルでライブ配信され、既存の加入者は追加料金なしで視聴できる。全試合を見たい人向けのプレミアムパッケージは年額5,999バーツ(約2万9,000円)で、家族での視聴に対応し、2台同時視聴も可能だ。最長10カ月の分割払い(金利0%)も用意され、月あたりに直すと約250バーツ、日本円で1,200円ほどになる。
タイで放映権が「当たり前」ではない理由
日本では地上波やネット中継でワールドカップを見られるのが当然のように感じられるが、タイでは事情が異なる。タイには本来、国民的関心の高いスポーツを無料放送で届けるべきだとするルールがあり、ワールドカップもその対象に位置づけられてきた。 一方で、放映権料は世界的に高騰を続けている。かつては国の機関や公共放送が中心になって権利を押さえていたが、近年は民間企業が主導する形へと移ってきた。今回のように開幕ぎりぎりまで交渉がもつれる背景には、高くなりすぎた放映権料を誰がどう負担するのかという構造的な問題がある。タイのサッカーファンが毎回やきもきさせられるのも、このためだ。
中継の有無が左右する数百億バーツの経済効果
ワールドカップはタイ経済にとっても無視できないイベントだ。タイ商工会議所大学(UTCC)は、今大会に伴うタイ国内の消費が686億バーツに達すると試算しており、もし中継が実現しなければ110億バーツ前後が失われかねないと指摘していた。飲食店やバーの売り上げ、関連商品の購入に加え、賭博関連の金額も大きいとされる。放映権が土壇場でまとまったことは、こうした消費の取りこぼしを防ぐ意味でも小さくない。
開幕戦はタイ時間の6月12日未明にキックオフを迎え、決勝は7月19日に予定されている。直前までブラックアウトの不安にさらされたタイのファンは、ひとまず胸をなで下ろして大会を迎えることになった。



