バンコク中心部の観光名所エラワン廟で2015年に20人が死亡した爆破テロ事件で、南バンコク刑事裁判所は6月11日、実行犯として起訴されていたウイグル人の2被告に死刑を言い渡した。事件発生から約11年、400人を超える証人と数万ページの証拠を費やした末の一審判決であり、タイ史上最悪とされるテロ事件の審理がようやく大きな節目を迎えた。
4人の裁判官が下した極刑
死刑判決を受けたのは、ユスフ・ミエラリ被告と、アダム・カラダグの別名でも知られるビラル・モハメド被告の2人である。いずれもパスポート上は中国・新疆ウイグル自治区の生まれとされるウイグル人だ。罪状は計画的殺人と殺人未遂などだった。 4人の裁判官による合議体は、被告らが複数の法律に違反する単一の行為に及んだと認定し、情状酌量の余地はないと結論づけた。その上で、法が定める最も重い刑罰として極刑を選んだと説明している。タイは死刑を存置する国だが、実際の執行は近年ごく限られており、刑が確定して執行に至るかどうかは今後の上訴審の判断に委ねられる。
夕方の繁華街を引き裂いた手製爆弾
事件が起きたのは2015年8月17日の午後6時55分ごろ。場所はバンコク屈指の繁華街、ラチャプラソン交差点に面したエラワン廟だった。配管に約3キロのTNT火薬を詰めた手製爆弾が、参拝客や買い物客でにぎわう時間帯に炸裂した。 爆発による死者は20人。うち6人がタイ人で、残る14人は外国人だった。負傷者は120人を超えた。エラワン廟はヒンドゥー教の神ブラフマーを祀る祠で、高級ホテルや百貨店が立ち並ぶ一角にある。タイ人だけでなく外国人観光客にとっても人気の参拝スポットで、とりわけ中華圏からの旅行者に親しまれてきた。日本人にとっても、隣接するホテルや商業施設を訪れたことがある人は少なくないだろう。多くの人が行き交う象徴的な場所が狙われたことが、事件の衝撃をいっそう大きくした。
なぜ審理に11年もかかったのか
この裁判は異例の長期戦となった。検察側の証人は400人以上、弁護側も45人を超え、証拠書類は数万ページに達した。新型コロナによる中断に加え、通訳の確保が難航したことも遅れの一因となった。途中では通訳の一人が薬物使用の疑いで逮捕される一幕もあり、被告が長期にわたって軍の施設に勾留されたことも論争を呼んだ。 当局はもともと17人を容疑者として特定していたが、実際に身柄を確保できたのは3人にとどまる。残る関係者の多くは国外へ逃れたとみられる。容疑者に宿泊先を貸したとして訴追されたタイ人女性ワンナ・スアンサン被告は、2024年11月に証拠不十分で無罪となった。今回死刑判決を受けた2人は、11年間勾留されながら一貫して起訴内容を否認してきた。
動機とされたウイグル送還問題
公判では、事件の動機が2015年7月にタイ政府が109人のウイグル人を中国へ送還したことへの報復だった可能性が指摘された。送還からわずか数週間後に爆破が起きたという時系列が、その見立てを支える根拠とされている。 ウイグル人の扱いは、タイにとって長年の外交的なジレンマであり続けてきた。経済的な結びつきが強い中国と、人権状況を懸念する欧米との間で板挟みになる構図は、2015年の送還のときも、その後も繰り返し国際社会の批判を招いてきた。今回の事件は、その緊張がタイ国内で最悪の形をとって噴き出した出来事だったといえる。
被告は無罪を訴え、1か月以内に上訴へ
両被告は判決を不服とし、1か月以内に上訴する方針を示している。被告側は、捜査段階での自白は強要されたものだと一貫して主張してきた。ミエラリ被告は判決の後、「タイの司法に安らかな眠りを。私はこれを一切受け入れない。私は何も悪いことをしていない」と語ったと伝えられる。弁護人の一人も、まだ十分に審理されていない論点が残っているとして、争う構えを崩していない。 一方、中国外務省は判決を歓迎し、実行犯を「まったく非人道的だ」と非難した。被告がいずれも中国籍とされるだけに、その後の上訴審の行方は中国側も注視している。
エラワン廟は事件のあとまもなく修復され、いまも線香の煙が絶えない参拝の場としてにぎわいを取り戻している。一審で死刑判決が出たとはいえ、控訴審を経て刑が確定するまでにはなお時間を要する見通しで、タイ最悪のテロ事件をめぐる法廷闘争は次の段階へと移る。





