タイで電気自動車(EV)の普及が加速している。2026年5月のバッテリーEV(BEV)の新規登録台数は18,042台に達し、前月から80%増えた。注目すべきは、その中身だ。販売の上位を占めるのは中国ブランドで、5月は中国MGの小型EV「S5」が初めて首位に立った。日本車が圧倒的に強いタイ市場だが、こと純粋なEVに限れば、主役は中国勢になりつつある。
5月のEV登録は1.8万台、前月比80%増
タイのEV情報サイトのまとめによると、2026年5月に新規登録された100%電気のBEVは18,042台だった。前の月から8,019台、率にして80.0%の大幅な増加で、前年の同じ月と比べても大きく伸びている。 タイ政府はEVの購入補助や減税、現地生産の誘致を進めており、その後押しもあって、EVは年々身近な選択肢になってきた。1か月で1万8千台というペースは、東南アジアの中でも際立った数字だ。
トップ5を中国ブランドが独占
5月の登録台数ランキングで初めて首位に立ったのが、中国MGの「S5 EV」だ。続く2位以下も、BYDの「ATTO 3」と「ドルフィン」、奇瑞(チェリー)の「V23」、そして前月まで首位だったJAECOO(ジェイクー)の「5」と、上位5車種をすべて中国系ブランドが占めた。 首位のMG S5は、コンパクトな電動SUVで、タイ国内で組み立てられている。価格はおよそ65万〜85万バーツ(約315万〜413万円)と、中国メーカーらしい手の届きやすさが武器だ。低価格と現地生産を軸に、中国勢はタイのEV市場で一気に存在感を高めている。
日本メーカーが苦戦するEV市場
タイは「アジアのデトロイト」とも呼ばれる自動車生産大国で、市場全体ではトヨタやいすゞ、ホンダといった日本メーカーが今もおよそ7割の高いシェアを握る。ところが、純粋なEVに限ると話は別だ。BEV市場では中国ブランドが7割を超えるシェアを占めるとされ、日本勢の存在感は大きく後退する。 日本メーカーはハイブリッドやピックアップトラックで強さを保つ一方、フル電動の車では出遅れた面が否めない。タイ政府がEVシフトを強力に推し進めるなか、この分野でどこまで巻き返せるかは、日本の自動車産業にとっても大きな課題だ。
なぜタイでEVが伸びるのか
タイでEVがここまで伸びる背景には、いくつかの理由がある。まず、政府の手厚いEV補助金と税の優遇だ。購入時の負担が抑えられ、消費者がEVに手を出しやすくなった。次に、中国メーカーが相次いでタイに工場を建て、現地生産を始めたこと。輸入車にかかる高い税金を避けられるため、価格を下げやすくなった。 充電インフラの整備が進んだことや、燃料価格への意識の高まりも、EV普及を後押ししている。こうした条件が重なり、タイは中国EVメーカーにとって、東南アジア攻略の重要な足がかりになっている。
値下げ競争と日本勢の巻き返し
中国メーカーが次々と参入したことで、タイのEV市場では激しい価格競争が起きている。各社が値下げや手厚いキャンペーンで顧客を奪い合い、消費者にとっては選べる車種が増え、価格も下がるという恩恵がある。一方で、急増する供給に需要が追いつかず、在庫がだぶつく懸念や、値下げ合戦による各社の収益悪化も指摘されている。 日本メーカーも、この流れに手をこまねいているわけではない。トヨタやホンダはハイブリッド車で根強い人気を保ちつつ、EVの投入を進めている。とはいえ、価格と品ぞろえで先行する中国勢を追うのは容易ではない。タイでの競争は、世界各地で起きている「日本車対中国EV」の構図を、最も鮮明に映し出す舞台のひとつだ。 タイ政府は2030年までに国内の自動車生産の3割をEVにする「30@30」と呼ばれる目標を掲げ、生産と販売の両面でEVシフトを促している。今後も、中国メーカーの攻勢と、それに対する日本勢の巻き返しが、タイの道路の上で続いていくことになりそうだ。
かつて日本車の独壇場だったタイの自動車市場は、EVという新しい土俵で大きく姿を変えつつある。中国勢の攻勢に日本メーカーがどう応えるのか。タイの道路で繰り広げられる競争は、世界の自動車産業の縮図でもある。





