バンコクのタクシー運転手が、車内に置き忘れられた8,500ユーロ(約32万バーツ)もの現金を、持ち主のスリランカ人観光客に返した。日本円にしておよそ150万円にあたる大金である。「このお金は私のものではない」と語った運転手の正直な行いが、温かい話題を呼んでいる。
後部座席に残された8,500ユーロ
運転手は、サムットプラカン在住のパタピー・ヤムサノーさん(50)。緑と黄色のタクシーを走らせている。6月2日の午前8時すぎ、スワンナプーム空港で2人の乗客を乗せ、バンコクのシーロム・ソイ19まで送り届けた。
乗客が降りたあと、後部座席の後ろに黒い肩掛けバッグが残されているのに気づいた。中には、8,500ユーロの現金のほか、トミー・ヒルフィガーの白いスニーカーや、ホテルの部屋の鍵が入っていた。
ラジオ局を通じて持ち主に返す
パタピーさんは、交通情報や人助けで知られるラジオ局「FM91」に連絡を取った。一方、忘れ物に気づいた観光客が泊まるホテルの従業員も、同じFM91に問い合わせていた。両者がラジオ局を介してつながり、返還の段取りが整った。
受け渡しは、バンコク・チャトゥチャックのパホンヨーティン通りにあるFM91の局舎で行われた。落とし主は、ムハンマド・アシフさんとムハンマド・オナイズさんというスリランカからの旅行者で、すでに警察に届け出ていた。無事に大金が戻り、二人は深く感謝したという。お礼として、運転手にいくらかの謝礼も渡された。
連絡の橋渡しをしたFM91は、交通情報を流すだけでなく、落とし物や事故、困りごとの相談を受け付ける「お助けラジオ」として、タイの人々に親しまれてきた。ドライバーや市民から日々情報が寄せられ、こうした善意のニュースが生まれる土壌にもなっている。
「私のお金ではない」
パタピーさんは、返還にあたって「このお金は私のものではない」と語ったという。当たり前のことのようでいて、見知らぬ他人の大金を前に、そう言い切れる人ばかりではない。タイでは、高額の忘れ物を届けたタクシー運転手が、警察や運輸当局から表彰される例も少なくない。決して楽な仕事ではないなかで、正直さが報われる仕組みがあることも、また一つの安心材料である。
配車アプリの運転手による暴行事件など、ドライバーをめぐる暗い話題が続いたなかで、今回の出来事は、タイにも誠実に働く人が大勢いることを改めて思い出させる。外国からの旅行者にとっても、こうした善意は、その国の印象を温かいものにしてくれる。