タイ閣議が2026年4月29日に承認した新しい電気料金体系は「家庭向け200ユニット以下を3バーツ/ユニットに据え置く」という見出しで報道されたが、地方の小売店(タイ語で「ร้านโชห่วย」)の現場からは「自分たちには関係ない政策」「むしろ4.50バーツ/ユニットの単価で利益が消える」という悲痛な声が上がっている。家庭向けと事業者向けで実態が大きく異なる構造が浮き彫りになった。
ウタイタニ県やトラン県などの小規模商店主は、冷蔵ケースで飲料・乳製品・冷凍食品を維持し、ATMやLEDサインも常時稼働させているため、月600〜700ユニットを使用するのが常態だ。トラン県の小売店主パリヤ氏は月の電気代が2,800〜3,000バーツ(約12,600〜13,500円)に達しているとし、「この夏は店内のエアコンを止めて扇風機だけで営業している。それでも仕入価格が上がっていて、商品を売っても電気代を払うために売っているような状態だ」と語った。
新料金体系では家庭の最初の200ユニットは3バーツ/ユニット以下に据え置かれるが、これを超えた部分は累進的に上昇する。中小事業者の400ユニット超の使用部分には4.50バーツ/ユニットの単価が適用されるため、月のコスト増がそのまま利益を削ぐ構造になっている。ブリーラム県の小売店主は「経済が冷え込んでいる時期に、最も体力の弱い小規模事業者の原価を上げる政策だ」と批判している。
タイの「ร้านโชห่วย」は、村や町の中心で食品・日用品・スマホアプリチャージ・公共料金支払い・小口送金まで担う社会インフラに近い存在で、タイ全土に推定35万店以上ある。在タイ日本人の生活でも、コンドミニアムから歩いていける小さな商店で水・ビール・米を買うシーンは多く、こうした店が次々と閉店すると地域の物流が直接的に痩せる。コラート、ナコーンサワン、ウタイタニなどの内陸県では、セブンイレブン・ローソン100の進出が遅い分、ローカル小売店への依存度が高い。
エネルギー学者は太陽光パネル設置補助の拡充こそが本質的な解決策だと指摘する。現行の「タイ助タイプラス」(5月登録・6月開始)は買い物の40%を国が負担するスキームだが、店舗側の電気代増加は別ロジックで動いており、政策同士のギャップが残ったままだ。アヌティン政権の経済委員会(5月4日初会合)が、家庭の話題性を取りに行った電気料金圧縮政策と中小事業者の現場負担をどう整合させるかが、次の焦点になる。