物議を醸してきた中国系の製鉄会社シンケユアンの操業再開を、タイ工業省が認めた。だが、2025年に崩落した会計検査院(監査院、SAO)新庁舎へ規格外とされる鉄筋を供給した過去や、7,000件を超える偽の税インボイス疑惑、有害廃棄物の不正保管が指摘されてきた企業だけに、野党や鉄鋼業界からは「本当に安全なのか」と再開を疑問視する声が噴出している(関連記事:崩落ビルの鋼材メーカー、シンケユアンが18カ月ぶり操業再開へ)。
工業省が18カ月ぶりの再開を承認
ワラウット・シルパアルチャ工業相は6月9日、工業局がシンケユアンの操業再開を認めたことを確認した。同社はラヨーン県の工場に対し2024年末から操業停止を命じられていたが、工業局は再開の条件として大気汚染対策を中心に7項目の改善を指示。その後の排出ガスの試験で汚染物質の値が省の基準に適合したと報告され、再開が認められたという。
「煙突ではなく鋼の安全性が問題」野党の反論
これに対し、クラタム党のペーラワス・ソムウォン副報道官は、基準適合という言葉が問題の幕引きに使われることへの懸念を示した。環境基準への適合と、製品である鋼材の品質は別の問題だという指摘である。
副報道官は「問われているのは煙突の検査に通ったかではない。この工場の鋼が本当に安全で丈夫なのか、住宅や学校、病院、公共施設を再び危険にさらさないか、ということだ」と述べた。野党と鉄鋼業界の10団体は、検査報告書と品質管理記録の公開、検査機関と適用基準の明示、独立した専門家による結果の再検証、そして不良鋼が市場に出回るのを防ぐ具体策の提示を求めている。
崩落ビル、偽インボイス、有害廃棄物
シンケユアンの名が全国に知られたのは、2025年3月28日の地震で、建設中だったバンコク・チャトゥチャック地区の監査院新庁舎が崩落した事故がきっかけだった。崩れたビルには同社が供給した鉄筋が使われていた。タイ鉄鋼協会の当初の検査では規格を満たしていないとされたが、その後の分析では基準に適合したとの結果も示され、会社側は不正を否定している。
問題はそれにとどまらない。歳入局は同社が2015年から2017年にかけて7,000件以上の偽の税インボイスを作成したとして刑事告発しており、被害額は2億バーツ(約10億円)を超え、追徴を含めると最大で10億バーツ(約49億円)に上る可能性があるとされる。特別捜査局(DSI)も捜査に乗り出した。さらにラヨーンの工場では、未申告の工業用ダストが有害廃棄物として大量に保管されていたことが判明している。検査で確認された量は4万トンを超え、同社が2022年に報告した2,245トンを大きく上回った。同社の操業免許は、昨年12月に工場で起きた死亡火災を受けて停止されていた。
ワラウット工業相は省の事務次官に詳しい説明を行うよう指示した。野党側は情報の開示を通じて透明性を確保するよう改めて求めており、崩落事故の記憶が生々しいなか、再開の判断が妥当だったかどうかをめぐる議論は続きそうだ。