タイ国民貯蓄基金(กอช./National Savings Fund/NSF)が2026年5月1日のメーデーを前に、タイの労働者の財政状況がいかに脆弱かを示す調査結果を公表し、非正規労働者向け年金制度への加入を呼びかけた。タイ商工会議所大学経済予測センターとタイ商工会議所が実施した「2569年タイ労働者の状況」調査では、回答者の79.1%が貯蓄ゼロ、月収15,000バーツ以下の層では98%が世帯平均50万バーツ(約225万円)の債務を抱えていることが判明した。
調査結果が示すのは、タイの労働者の家計が「収入<支出」の構造に陥り、足りない分を借入で補う悪循環に入っているという現実だ。月収15,000バーツ以下は法定最低賃金近辺の中小企業従業員・配達員・路上小売店主などが含まれ、調査回答者の中核を占める。約50万バーツの世帯債務はクレジットカード、無担保ローン、街金、家族間借入の合算で、月収換算で33ヶ月分に達する規模となる。
国民貯蓄基金は、社会保険第33条(正規雇用者向け)にカバーされない自営業・フリーランス・農家・配達員・路上商人・家事手伝いなど「非正規労働者」(タイ語で「แรงงานนอกระบบ」)向けの任意加入型年金制度だ。最大の特徴は政府が最大100%の上乗せ(マッチング)を行う点で、加入者の年齢に応じて年間最大1,800バーツ(約8,100円)まで政府が同額を積み立てる。30歳の加入者なら、自分が1,800バーツ拠出すれば政府が同額の1,800バーツを上乗せし、年間3,600バーツが基金に積み立てられる仕組みだ。
タイにいる労働者の半数以上が「非正規」とされており、社会保険局(สปส.)に加入していない人口は推計2,000万人を超える。今回の調査結果はこの層が将来の年金受給資格を持たないまま定年を迎える危険性を浮き彫りにした。先日報じた社会保険局の固定資産40億バーツ消失疑惑(4/29発覚)と合わせ、タイの社会保障制度の脆弱性が連日のニュースで明らかになっている形だ。
在タイ日本人のうち就労ビザと労働許可証を持って雇用されている人は社会保険第33条加入で守られているが、フリーランスや個人事業主、退職後にタイで暮らす日本人で社会保険にカバーされていない層には、国民貯蓄基金が選択肢になり得る。NSFは外国人加入については書類上「タイ国籍者および永住権保有者」が原則だが、長期居住者向けの特例検討は議論のテーマになっている。5月1日のメーデーは、タイ社会全体の労働者保護政策が改めて議論される節目になる。