タイ憲法裁判所が2026年5月12日に、活動家ネティウィット・チョーティパッパイサーン氏(เนติวิทย์ โชติภัทร์ไพศาล)が起こした徴兵法(พ.ร.บ.รับราชการทหาร พ.ศ. 2497/1954年法)違憲訴訟の判決を下す。問われているのは同法第27条と第45条が、憲法第26条(個人の自由)と第31条(思想・良心・宗教の自由)に反するか否かで、判決次第ではタイの「くじ引き徴兵制度」の根幹が揺らぐ可能性がある。
ネティウィット氏は元チュラーロンコーン大学学生会長で、長年にわたり徴兵反対・人権・LGBTQ+の運動を主導してきた著名な活動家だ。本人は徴兵検査への出頭を拒否し、徴兵忌避罪で訴追されている。原審ではネティウィット氏側が「良心的兵役拒否(conscientious objection)」を理由に徴兵法そのものの違憲性を訴え、2025年9月に証拠調べを終えた段階で憲法裁判所への送致請求が認められた。
憲法裁判所は2026年1月28日に審理を開始し、国防大臣に対して関連書類と意見を15日以内に提出するよう命じた。その後、関係当局からの追加資料を踏まえて4月29日に「5月12日に評議し判決を出す」と日程を決定。タイの政治・人権・軍事制度を横断する重要事件として注目されている。違憲判決が出れば、1954年から続く現行の徴兵法は法改正・廃止の議論に直面する。合憲判決であれば、ネティウィット氏の刑事裁判が再開し、徴兵法違反で最大3年の懲役判決を受ける可能性がある。
タイの徴兵制度は20歳になった男性全員が徴兵検査の対象となる「くじ引き式」で、毎年4月に全国の郡役場で実施される。黒札(ใบดำ)を引けば免除、赤札(ใบแดง)を引けば2年間の軍隊勤務(自願者は1年に短縮、ROTC修了者は免除)となる。年に約9万人が徴兵される計算で、近年は人権団体・LGBTQ+団体・元兵士のメンタルヘルス支援団体などが「良心的兵役拒否」「ジェンダー多様性への配慮」「兵士への暴力的訓練の廃止」を求めて声を上げてきた。
5月12日の判決はタイ国内のみならず国際的な人権コミュニティからも注目されている。良心的兵役拒否は欧州各国・米国・韓国などで憲法または法律で認められているが、タイ・シンガポール・ベトナムなどアジア諸国では基本的に認められていない。在タイ日本人にとっては直接の影響はないものの、タイの徴兵制度がメンタルヘルス問題(先日のサムットプラカン送迎バス飛込み事件のような元兵士の発作)と深く絡んでいる現実を踏まえると、制度改革の動向は社会全体の安全に間接的に関わるテーマだ。