タイのカシコーン研究センター(ศูนย์วิจัยกสิกรไทย/KResearch)が2569年(2026年)の月平均解雇者数を4万人と予測していることが、5月1日メーデー前夜の労働シンポジウムで改めて警鐘として共有された。シンポジウムは2026年4月29日にバンコク・サムヤーン地区のマンダリンホテルで開催され、女性男性前進財団・子ども青少年家族財団・ランシット周辺労働組合・国民健康増進運動(ขสช.)・タイ健康増進財団(สสส.)が共同主催。「危機の中の危機にあるタイ労働者と質の低下する生活」をテーマに、経済・地政学・環境危機が労働者を直撃する現状が議論された。
社会保険第33条加入者(正規雇用)の年間解雇者数は、2565年(2022年)439,084人、2566年(2023年)419,405人、2567年(2024年)441,840人と横ばいで推移してきたが、2568年(2025年)に531,779人と前年比約20%急増した。この勢いが続けば2569年は月平均4万人超ペースに達する計算になる。業種別では製造業が24%で最多、卸売・小売12%、建設9%、専門職5%、運輸・倉庫4%が続く。製造業の比率が突出して高く、自動車・電機・繊維といったタイ経済の柱産業が同時に縮んでいる構図だ。
労組指導者のスットチャート・イアムサエン氏は、正社員ほど真っ先に切られていると指摘した。雇用主は社会保険負担や退職金支払いを嫌い、下請け会社や移民労働者にシフトすることで責任を回避しているという。地域による賃金格差も鮮明で、バンコク中心部の最低賃金が日400バーツであるのに対し、隣接するパトゥムターニー県ランシットは372バーツと28バーツ低い。「同じ通勤圏の同じ仕事で日28バーツ違う」状態が続いている。
特に厳しいのがプラットフォーム配達員(ライダー)で、1配送あたりの報酬は数年前の60〜80バーツから現在20バーツ前後まで下落している。およそ3分の1だ。配達員は気温40度超の屋外と大気汚染(PM2.5)のなかで配送回数を稼ぐしかなく、収入と健康の両面で削られ続けている。労働団体は1配送40バーツの最低保証を政府に要求しているが、Grab・LineMan・Foodpanda等のプラットフォームは応じていない。
労働シンポジウムに登壇した女性男性前進財団のジェーデック・チャオウィライ顧問は、政府に対して物価統制、雇用契約の権利保障、非正規労働者への法的保護拡大の3点を求めた。在タイ日本人企業の現場でも「タイ人スタッフがどんどん辞める」「採用してもすぐ辞退される」という声が増えてきており、これは単に労働市場のミスマッチだけでなく、報酬と生活費のバランスが崩れていることの裏返しでもある。5月1日のメーデーで街頭に出る労組の声が、アヌティン政権の経済委員会(5月4日初会合)にどこまで届くかが当面の焦点となる。