タイの会計検査院(สตง.)がタイ社会保険局(สปส.)の2568年度(2025会計年度)財務諸表に対して「意見不表明」を出していたことが発覚し、SNSで一気に火が付いている。社会保険局の帳簿には土地・建物・設備など固定資産が約130億バーツ計上されていたが、実地棚卸では約95億バーツ分しか確認できず、差額の約36億バーツが「行方不明」になっている。さらに別の帳簿間で約3.8億バーツの数字のズレも見つかっており、合計でほぼ40億バーツ(約180億円)規模の不整合だ。
会計検査院の「意見不表明」は監査結果として最も重い扱いで、「監査に必要な十分な証拠が得られず、財務諸表の正確性について意見を述べることができない」という意味になる。事実上、社会保険局の決算は「会計検査院が信用しない」と宣告されたに等しい。前年の2567年度(2024会計年度)にも同様の意見不表明が出ており、2年連続で監査が通らない状態が続いている。
火種となったのは「ประสบการณ์ของพี่ทอมเองครับ(私ピートムの体験談)」というFacebookページの投稿で、「ほぼ40億バーツの資産が追跡できない」という告発がコメント1,200件・シェア2,000件超に拡散した。プラチャーチョン党(人民党)の比例代表議員ラックチャノック・シリノックがこれをリポストし、政治問題化した。社会保険局の理事会は2026年5月19日に説明会を開く予定で、「内容が膨大なので詳細整理に時間がかかる」とコメントしている。
社会保険局は加入者から徴収した資金を運用する基金本体(運用資産2.65兆バーツ規模)と、業務用の固定資産(土地・建物・設備)を別管理している。今回の監査で問題になっているのは固定資産側で、加入者が積み立てた老齢給付や医療給付の基金そのものが消えたわけではない点には注意が必要だ。ただ、固定資産ですら2年連続で帳簿と実物が合わない状態は、組織のガバナンス全般に対する信頼を大きく損なう。
タイで就労ビザと労働許可証を持つ外国人は社会保険の加入義務があり、在タイ日本人駐在員や日本人経営者の多くも毎月給与から保険料を天引きされている。今回のスキャンダルは加入者の老齢給付・医療給付の権利そのものを直接脅かすものではないものの、社会保険局のガバナンスへの信頼が揺らげば将来の制度改革(給付削減や加入者負担増)の議論にも影響する。5月19日の理事会で社会保険局がどこまで具体的に説明できるかが、今後の焦点となる。