タイの汚職委員会(ป.ป.ช./PACC)と警察、特別捜査局(DSI)、内務省管轄の地方行政部が2026年4月29日、バンコク・トンブリ区登録事務所と関連の住居の計4箇所を一斉に踏み込み、偽出生証明書を100件超発行していた職員ら6人を現行犯逮捕した。作戦名は「ย้อนเกล็ดมังกร(龍の鱗を逆なで)」で、外国人にタイ国籍を詐称させる組織的詐欺の摘発を目的としている。
逮捕されたのはトンブリ区登録事務所の現役職員1人と、その協力者である民間人5人。中央の汚職案件刑事裁判所が発行した令状をもとに踏み込み、現場には印刷済み・発行待ちの偽出生証明書、申請書類、現金、印鑑、登録システムへのアクセス記録などが押収された。容疑は「公務員の職務不正行為(タイ刑法第157条相当)」「文書偽造」「公文書詐欺的作成」など複数項目で立件される。
タイの出生証明書(สูติบัตร)は、本人の国籍取得・パスポート発行・社会保険登録・銀行口座開設・不動産取得など、ほぼ全ての公的手続きの起点となる重要書類だ。これが偽造されれば、外国人がタイ国民になりすまして10年以上の無資格滞在・税逃れ・タイ人専用補助金(コンラクン、タイ助タイプラス等)の受給まで可能になる。捜査側は今回の100件超のうち、すでにタイ国籍を取得して10年以上経過している人物がいることも視野に入れて遡及調査を進めている。
これは2026年4月のコラート州プロックラン町(ナコーンラーチャシーマー県)の同種事件と一連の流れにある。先月、コラートの町長が自治体公務員を告発し、27人の中国グレー(不法滞在中国人)が虚偽の出生登録で1件あたり1〜3万バーツを受領していた事実が暴露され、全国の登録事務所に対する一斉調査が始まっていた。今回のトンブリ区の摘発はその流れの首都圏版で、東京・大阪に当たるバンコク中心部にも同種の組織が根を張っていたことを示している。
在タイ日本人にとっては直接の被害ニュースではないが、コラートとバンコクで連続して摘発されている事実は「タイの戸籍制度が組織的に揺らいでいる」現実を示しており、タイで仕事をする日本企業のコンプライアンス担当・人事担当には他人事ではない。タイ人スタッフを雇用する場合の本人確認書類(出生証明書のコピー添付)の信頼性をどう担保するかが、今後の実務課題になる。捜査機関は今回の6人を起点に協力者ネットワーク全体の摘発を進める方針だ。