タイの金融グループTISCO傘下の経済分析センター(TISCO ESU)が4月24日、タイのエネルギー需給に関する警告を発表した。ホルムズ海峡の封鎖が8週間を超えて長期化する中、タイは年央までに「実質的なエネルギー不足」に陥るリスクがあるとし、政府に対して本格的な省エネ政策の即時実施を促した。
警告を発表したのはTISCO ESUの上級ストラテジスト、タナタッチ・シリサワット氏。中東情勢の悪化を背景に、世界の主要エネルギー輸送ルートであるホルムズ海峡はほぼ完全に閉鎖され、解消の見通しは当初の予測より大幅に後退していると指摘した。
とくに懸念材料として、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)が同海峡の航行ルートを完全に掌握し、すべての国籍の船舶に対して通航禁止を宣言した点を挙げる。これはイラン政府を超える形で軍が前面に立った動きで、米国および国際社会との交渉材料として「世界的なエネルギー危機を通じた経済圧力」を駆使する狙いがあるという。結果として、短期的な事態収拾の可能性は低下している。
タイ経済への影響は特に深刻と指摘。タイは国内原油需要の半分以上を中東からの輸入に依存し、その大半がホルムズ海峡を経由するルートで運ばれている。国内には法定備蓄(Legal Reserve)と商業備蓄(Commercial Reserve)を合わせた石油備蓄があるが、海峡封鎖が長期化した場合、これら備蓄が数ヶ月のうちに枯渇する可能性が現実的になっている。
TISCO ESUはこれを「Energy Lockdown(エネルギー封鎖)」と呼び、単純な燃料価格上昇を超えた事態としてとらえている。既に世界の原油・天然ガス・石油化学スプレッドが軒並み大幅上昇しており、タイ政府は燃料補助や燃料小売価格引き下げの措置を繰り返してきたが、需給の根本問題が解決しない限り、これらの対策は延命策にすぎない。
同センターは、政府が本格的な省エネ政策を打ち出す必要があると提言している。具体的には産業部門での稼働時間短縮、運輸部門でのガソリンスタンド営業時間制限、家庭向けの節電キャンペーンなど、計画的な需給調整を早期に始めることが、夏場以降の強制停止(Forced Shutdown)を回避するカギとみる。
足元の市況では、タイ石油基金委員会(OFM)がディーゼル小売価格の引下げを繰り返し、ソンクラン後も1週間で3度の値下げを実施したが、これは基金が補助金で単価を吸収しているためで、供給自体が安定したわけではない。タイ政府は別途、2027年度予算で燃料基金への追加充当や借入上限引き上げを検討しており、財政面での対応も本格化している。
在タイ日本人コミュニティにとって、エネルギー不足はタクシー・Grabの料金、電気代、物流コストを通じて生活全般に波及する。加えて、駐在員が関わる製造業・物流業では工場稼働の制限リスクが業績に直結する。TISCO ESUの警告は単なる予測ではなく、日常生活と企業活動の双方で早期の備えを促すメッセージとなっている。