タイのアヌティン首相が、航空機用燃料「ジェットA1」の輸出禁止を特例として解除する命令に署名した。国家安全保障会議(NSC)がエネルギー関連の提案を承認したことを受けたもので、国内にだぶついた在庫をベトナムやフィリピンへ輸出して放出する狙いがある。
3月の輸出禁止から一転、ジェット燃料を特例解除
タイ政府は2026年3月、ガソリンやガソホール、ディーゼル、ジェットA1、LPG(液化石油ガス)といった燃料の輸出を一時的に禁止した。中東でのアメリカ・イスラエル・イランの対立が激化し、ホルムズ海峡など石油輸送の要衝で航行リスクが高まったことから、国内の燃料不足への不安に対応する措置だった。ただし、タイから燃料の供給を受けている隣国ラオスとミャンマーへの輸出は、例外として認められていた。
当時から当局は、航空燃料の備蓄は3カ月分ほど確保されているなどとして、国内供給に大きな問題はないとの立場を示していた。それでも不安の広がりを抑えるため、供給の安定を優先して輸出を絞る判断をしていた。今回、アヌティン首相はこのうちジェットA1について、輸出禁止を特例で解除する形をとった。
国内供給を守るための禁輸が招いた在庫過剰
皮肉なことに、国内供給を優先するための禁輸が、別の問題を生んでいた。不足を避けようと製油所が高い水準で生産を続けた結果、精製された燃料が国内需要を上回り、在庫が積み上がったのである。タイの石油タンクは、安全に保管できる目安とされる容量の7割近くにまで達し、貯蔵能力が限界に近づいていたとされる。製油業者は、在庫を逃がして備蓄のバランスを保つため、特にジェットA1の輸出再開を政府に求めていた。
ベトナム・フィリピンへ輸出、製油所はフル稼働へ
今回の特例解除により、だぶついたジェットA1はベトナムやフィリピンへ輸出される見通しである。両国がタイ産の供給を歓迎しているとされ、過剰な在庫を海外へ振り向けることで、国内のタンク逼迫が和らぐと期待される。報道では、この決定はBCP、TOP、SPRC、IRPC、PTTGCといった大手製油関連企業にとって追い風となり、抑えていた生産能力を再び全開に戻す材料になると指摘されている。タイは東南アジアでも有数の製油能力を持ち、近隣国への燃料供給で一定の役割を担っている。エネルギー政策が、中東情勢への警戒から国内事情に合わせた調整の局面へと移りつつあることをうかがわせる動きである。