タイ各地で、中国資本が実質的に運営するリサイクル工場から、鉛やカドミウムといった有害物質が漏れ出していたことが問題になっている。こうした工場の多くは、タイ人を名義上のオーナーに立てた「ノミニー」と呼ばれる形をとっており、チョンブリ県だけでも17の施設が操業停止を命じられた。汚染された地域では水が使えなくなるなどの被害も出ており、当局は廃棄物の輸入規制と取り締まりを強めている。
「ナショナル・ソード」でタイに流れ込んだ廃棄物
発端は、世界最大の廃棄物受け入れ国だった中国の方針転換だ。中国は2018年1月、汚れたプラスチックや電子廃棄物の輸入を禁じる「ナショナル・ソード(国門利剣)」政策を導入した。かつて世界のリサイクル可能な廃棄物のおよそ半分を引き受けていた中国が門戸を閉じたことで、行き場を失った処理産業が東南アジアへと分散し、その多くがタイに流れ込んだ。タイは2018年から2021年の間だけで、110万トンを超えるプラスチックくずを輸入したとされる。国内で発生する電子廃棄物も年間40万トンを超えるといわれ、処理能力が追いついていない。安い労働力と緩い規制を求めて、外国の廃棄物がタイに集まる構図ができあがった。
タイ人名義で中国資本が動かす「ノミニー」
問題の工場に共通するのが「ノミニー」と呼ばれる形態だ。タイ人を名義上のオーナーとしてリサイクルの許可を取得し、実際の運営は中国人の所有者が握る。土地を持つタイ人が中国の投資家に長期で貸し、その投資家がさらに区画を分けて別の業者に又貸しする例もあるという。舞台となったのは、チョンブリ県やサムットサコン県、バンコク、ターク県、チャチューンサオ県、プラチンブリ県など複数の県にまたがる。チョンブリ県バーンブン郡クローンキオの一帯では、2019年ごろから中国系の工場が集まり、およそ88ライ(約14ヘクタール)の区域に密集していた。このうち17施設が、県の工業事務所から操業停止を命じられている。
鉛・カドミウム・水銀 深刻な汚染
現場から見つかった有害物質は深刻だ。チャチューンサオ県の倉庫では鉛やヒ素が、ターク県の埋め立て地からは1万3000〜1万5000トンものカドミウムが不正に持ち出されていた。水銀や、塩素を含むプラスチックを燃やした際に生じるダイオキシン類も検出された。汚染現場で働く労働者からは、安全基準を超えるカドミウムが検出されたという。周辺の集落では水の塩分濃度が上がって生活用水にも家畜にも使えなくなり、悪臭や排水への苦情も相次いだ。カドミウム汚染は、かつて日本で水や食物連鎖を通じて「イタイイタイ病」を引き起こした物質としても知られ、研究者は長期的な健康への影響を懸念している。環境団体EARTH(タイ生態系警戒回復財団)も環境サンプルを採取し、汚染と工場との関連を指摘した。
輸入禁止と取り締まりの強化
政府は対応を急いでいる。2025年1月1日にはプラスチックごみの輸入を全面的に停止し、6月24日には電子廃棄物の輸入禁止品目を428から463に拡大した。税関は2025年4月から2026年3月までに、疑わしいコンテナ714個を差し押さえ、レムチャバン港でも18個を押収した。関税法違反には最大10年の懲役、または50万バーツ(約240万円)の罰金が科される。特別捜査局(DSI)と工場の検査当局は、2025年10月に300トンを超える有害な電子廃棄物を押収するなど、摘発を続けている。海外のごみを不法に受け入れ、有害物質をまき散らす構図をどこまで断ち切れるかが、タイの環境と住民の健康を守るうえでの重い課題となっている。
