タイ下院は7月1日、2027会計年度(仏暦2570年)の歳出予算案を、賛成288、反対119、棄権86の賛成多数で可決した。総額は3兆7880億バーツ(約18兆4000億円)にのぼり、5月に発足したアヌティン政権が初めて編成した本予算となる。3日間にわたる審議を経て第一読会を通過し、今後は72人で構成する特別委員会が条文の詳細を精査する。
総額3.788兆バーツ、前年度からはほぼ横ばい
3兆7880億バーツという規模は、前年度にあたる2026会計年度から74億バーツ、率にして0.2%の微増にとどまる。歳入は3兆バーツを見込み、前年度比では794億バーツ、2.7%増える見通しだ。歳出3兆7880億バーツに対して歳入は3兆バーツにとどまるため、その差は借入による赤字で埋める構図になる。景気の下支えを優先しながらも、支出の伸び自体は強く抑えた緊縮寄りの編成といえる。アヌティン政権は5月の発足後、初の本格的な予算編成で、大型のバラマキ型対策よりも支出の選択と集中を前面に出した。政府はこの予算を「的を絞った予算編成(Precisely Targeted Budgeting)」と位置づけ、経済の安定、財政規律の強化、国の競争力向上、国民生活の下支え、長期的な開発への投資という5つの狙いを掲げている。アヌティン首相は編成にあたり、経済、社会、環境、安全保障の4分野の課題に同時に対応する必要があると強調し、国防面の備えにも重点を置く方針を示した。
財政赤字は圧縮、2029年にGDP比3%を目標
今回の予算で特に目立つのが、財政赤字を圧縮しようとする姿勢だ。赤字を穴埋めするための借入額は7880億バーツで、前年度から720億バーツ、8.4%減らした。前年度の赤字が8600億バーツ、GDP比でおよそ4.3%に達していたことを踏まえると、明確に縮小へ舵を切った形になる。エクニティ副首相兼財務相は、赤字をGDP比で段階的に引き下げ、2029年(仏暦2572年)までに3%以内へ収める方針を示した。4月時点の公的債務残高はGDP比66.66%と、法律が定める70%の上限に迫っている。上限内にはとどまっているものの、国の信用格付けや長期的な財政の健全性を考えると、赤字削減は待ったなしの課題だ。タイの公的債務はコロナ禍以降に膨らんだ経緯があり、歳出を広げすぎれば格付け会社の評価に響きかねない。審議では与党だけでなく野党の側からも財政状況を不安視する声が相次ぎ、歳入基盤の強化や無駄の削減が伴わなければ赤字頼みの構造は変わらないとの指摘も出た。
国営企業を通じて2700億バーツを追加投資
政府は予算本体とは別に、国営企業を通じて2700億バーツ(約1兆3000億円)超をインフラや重点事業に投じる計画も明らかにした。クリーンエネルギーや水資源の管理といった分野では、官民連携(PPP)による投資も進める考えだ。エクニティ氏は、財政に制約はあっても、景気の落ち込みが企業活動や雇用、経済全体へ波及するのを防ぐには対策の実施が欠かせないと説明した。この2700億バーツは予算の歳出には計上されないため、表向きの赤字を膨らませずに投資を確保できる利点がある一方、国営企業の負担や将来の債務として残る点には注意も要る。歳入増が想定通りに進まなければ、こうした予算外の投資も含めて財政の重しになりかねない。
特別委員会で精査し、第2・第3読会へ
第一読会での可決を受け、審議で出された与野党の意見は72人の特別委員会に引き継がれ、各省庁への配分や大型事業の妥当性が個別に検討される。その後、下院で第2読会と第3読会にかけられ、上院の手続きを経て成立する流れだ。タイの2027会計年度は2026年10月に始まる。総額だけを見れば前年度とほぼ同じだが、赤字と借入をどこまで実際に抑え込めるかが、アヌティン政権の財政運営を占う最初の試金石となる。景気やタイに拠点を置く企業の投資判断にどう影響していくのか、成立までの過程が引き続き注目される。

