ロシア外務省が、米国から刑事訴追を受ける恐れのある自国民に対し、タイへの渡航を控えるよう勧告した。タイが米国と協力して身柄を引き渡す可能性を警戒したもので、空港の利用すら避けるよう促している。一般の観光客向けの警告ではないが、年間190万人ものロシア人が訪れるタイにとって、両国の微妙な力関係を映す出来事だ。
対象は「米国に追われるロシア人」
勧告が出たのは6月12日。ロシア外務省は、米国当局による刑事訴追のリスクがある自国民に対し、タイ旅行を全面的に控えるよう強く呼びかけた。米国の情報機関がロシア国民を標的にした作戦を展開しているとして、タイの空港を経由することも避けるよう求めている。
背景にあるのは、タイと米国の間の犯罪人引き渡しの枠組みだ。ウクライナでの軍事作戦が始まって以降、米国がロシア国民に法的措置を取る動きが増えており、ロシアはタイを、米国に身柄を引き渡されかねない場所とみているようだ。
きっかけはプーケットでの逮捕劇
ロシアが念頭に置くのは、現実に起きた事例だ。2025年11月、ロシア国籍のデニス・オブレス容疑者がプーケットで逮捕され、その後、米国の法廷に出廷した。タイで拘束されたロシア人が米国の司法手続きに乗せられた形で、ロシア側の警戒感を強めるきっかけになったとみられる。
タイは観光大国であると同時に、米国とも軍事・司法面で長年協力してきた国でもある。大国の思惑が交差するなかで、タイの地が身柄引き渡しの舞台になり得ることを、今回の勧告は浮かび上がらせた。
タイ側は「関係は強固」と火消し
これに対し、タイ外務省は冷静な姿勢を見せている。タイとロシアの関係は強固で、2027年には外交関係樹立170周年を迎えると強調した。
ロシアはタイにとって重要な観光客の供給源でもある。2025年にはおよそ190万人のロシア人がタイを訪れ、ヨーロッパからの旅行者としては最多だった。プーケットやパタヤにはロシア人の長期滞在者やコミュニティも根づいている。今回の勧告が、こうした人の流れに大きく影響するのかどうかは、なお見通せない。ロシアの旅行業界団体は、問題となるような逮捕例は把握していないとしている。
