タイ国税局が、タクシン元首相に対する約176億バーツ(約855億円)の納税の徴収を本格化させる方針を示した。徴収を統括する立場の幹部は、国内外の資産を追跡したうえで、最終的に全額を回収できない場合は破産を申し立てる構えだと述べたと報じられている。
国税局が示した「国内外で追跡」の方針
国税局で徴収戦略を担当し次期局長に内定しているソムサック・アナンタワット氏は、タクシン氏の納税について国内と国外の双方で資産を追跡し、徴収を急ぐ考えを示したとされる。同氏は、追跡した結果として最終的に全額の回収に至らなければ、破産を申し立てて法的手続きに進む方針も明らかにしたと伝えられている。国税局は財務省から徴収権限の委譲を受けており、関連部署に案件を回して法的権限の枠内で具体的な手続きを検討している段階にある。
176億バーツはどこから来た税金か
今回の納税は、2006年初めにタクシン家がシンコープの株式をシンガポールの投資会社テマセク・ホールディングスへ売却した取引に端を発する。売却額は約733億バーツに上ったとされ、譲渡益に十分な課税がなされなかったことが当時のタイ国民の強い反発を招いた。課税の是非は約20年にわたって争われてきたが、タイ最高裁は2025年8月14日の判決(判決番号6890/2568)で下級審の判断を覆し、タクシン氏に追徴税の支払い義務があると認定した。最高裁が命じた追徴額は約176億バーツで、報道では約170億バーツと概数で示されることも多い。シンコープ株の売却は当時のタイ政治を揺るがし、2006年9月のクーデターへ至る政治的混乱の一因になったとされる、いわくつきの取引でもある。
資産調査と破産申立というプロセス
国税局は徴収にあたり、まずタクシン氏の資産を精査する方針とされる。調査の結果、保有資産が納税額に満たないと判断されれば、破産を申し立てる手続きに進むことになる。破産申立が認められれば、裁判所の管理下で資産が処分され、納税の原資に充てられることになる。徴収をめぐっては、元下院議員で民主党に所属していたワッチャラー・ペッチトーン氏が財務省に毎月のように働きかけており、2026年5月18日に提出した文書に対して財務省から同年5月22日付の回答を受け取ったことを明らかにしている。政治的な立場の異なる関係者からの圧力も働くなかで、当局は手続きの正当性を問われやすい状況に置かれている。
仮釈放後も残る法的課題
タクシン氏は2026年5月11日に仮釈放されたばかりで、今回の納税問題は同氏が抱える複数の法的課題の一つにあたる。約176億バーツという金額は、タイの個人をめぐる税の徴収案件としては極めて大きく、元首相が破産申し立ての対象になり得るという点でも異例である。もっとも、国外資産の特定や差し押さえには国際的な手続きが必要になり、全額の回収には長い時間がかかるとの見方が強い。徴収が実際にどこまで進むのか、続報が注目される。