タイのタクシン元首相が抱える170億バーツ(約826億円)規模の納税問題が、約20年の時を経て再び動き出している。2025年8月、最高裁が下級審の判断を覆し、いったんは決着したかにみえた課税の問題を蒸し返した。これを受けて元民主党議員のワッチャラ氏が、税の取り立てを求めて財務相に毎月圧力をかけると宣言している。政界に復帰して影響力を取り戻したとされるタクシン氏だが、古い金銭をめぐる問題は今も影を落としている。
2006年のシンコープ売却に端を発する
この納税問題の発端は、2006年にさかのぼる。タクシン氏の一族が、通信大手シンコープの株式をシンガポールの政府系ファンド、テマセクに売却した際の課税をめぐる争いだ。売却額は700億バーツを超える大型取引だったにもかかわらず、その利益にほとんど税がかからなかったことが、当時、国民の強い反発を招いた。株式の保有名義をめぐる仕組みも問題視され、この取引は同年の軍事クーデターの一因になったとされる。以来、課税の是非は長く司法の場で争われ、追徴される税額は約170億バーツとされてきた。
最高裁が約20年越しに逆転
転機となったのが、2025年8月14日に最高裁が出した判決である。これまでの下級審の判断を覆し、いったんは決着したかにみえた170億バーツの課税問題を改めて開いた。約20年を経ての逆転で、税の取り立てが現実味を帯びることになった。長い年月が過ぎたことで、税を取り立てられる期限が切れているのではという時効の論点も指摘されてきたが、最高裁の判断は、あらためて徴収への道を開いた形だ。財務省はこの問題を、法律上の権限を持つ歳入局に回して検討させているが、実際にいつ、どのように徴収するのか、具体的な見通しはまだ示されていない。
「毎月問い続ける」と元議員
この動きを後押ししているのが、元民主党議員のワッチャラ氏だ。同氏は5月18日に財務相へ正式な要求書を提出し、22日には歳入局が所管するとの回答を得た。そのうえで「タイが170億バーツを受け取るまで、毎月、大臣に問い続ける」と宣言。世間の関心をつなぎとめるため、毎月の問い合わせを続ける構えだ。タクシン氏は2023年に長い国外滞在を経て帰国し、仮釈放の身となった。一族は政界で影響力を保ち、政治の風景は当時と大きく変わったが、古い法的問題はなお尾を引いている。このほかにも、不敬罪に問われた事件で無罪となった判断に検察が上訴しており、その結論も待たれている。政界に戻ってもなお過去の案件が次々と動く構図は、タクシン氏とタイの司法・体制側との長い緊張関係を改めて映し出している。170億バーツが実際に国庫に入るのか、それとも再び宙づりになるのか。約20年に及ぶこの問題の行方は、タイ政治の力学を読むうえでの試金石にもなりそうだ。