タイ経済は、輸出も投資も伸びて数字の上では好調だ。だが、その恩恵の多くを一握りの大企業が握り、無数の中小企業は取り残されている。スパチー商務相は、こうした「K字型」の二極化に警鐘を鳴らした。輸出の伸びの8〜9割を大企業が占める一方、中小企業は海外市場や資金繰りの壁に直面しているという。
数字は好調、でも実感なき成長
タイの2026年第1四半期のGDPは2.8%成長し、投資は10%超、輸出は17.6%増と高い伸びを示した。4月の輸出は23%増に達している。数字だけを見れば力強い回復だが、商務相は「二極経済」という言葉でその裏側を指摘する。成長の果実が大企業に偏り、中小企業の多くがその流れから取り残されているという構図だ。
輸出の伸びは大企業に集中
輸出企業は登録ベースで3万社を超えるが、そのうち大企業はおよそ7,000社にすぎない。にもかかわらず、輸出の伸びの8〜9割をこの大企業が占めている。中小企業が輸出で得る収入は全体の17〜20%にとどまる。一方で中小企業は、タイ経済全体の売上のおよそ35%を支えているとされ、その存在感に見合った恩恵を受けられていない。物流や運営のコストも15〜20%上昇し、経営を圧迫している。タイでは企業数のほとんどを中小企業が占め、雇用の多くも支えている。それだけに、好況の波に乗れない層が広がることは、暮らしや地域経済の底堅さにも直結する。
中小企業を阻む壁
中小企業が伸び悩む背景には、いくつもの壁がある。海外市場への参入が難しく、資金調達のハードルも高い。新しい技術の導入も容易ではなく、国際競争を勝ち抜く手段に乏しい。成長の恩恵がAIや先端技術の分野に集中していることも、これらに手が届かない中小企業を一段と引き離している。さらに、米国の関税措置や貿易摩擦、米中対立、異常気象といった外部のリスクが、体力の弱い企業をより厳しい立場に追い込んでいる。大国間の駆け引きや関税への対応に政策の関心が集まるなかで、足元の小さな事業者の声が後回しにされがちだという問題意識も、商務相の警告の根っこにある。
政府が描く支援策
商務相は、中小企業の底上げに向けた対策を挙げる。能力開発のプログラムや、市場参入を後押しする「タイ助けタイプラス」などの取り組みだ。資金面では、キャッシュフローを評価軸にした新しい融資の仕組みや、知的財産を担保にした資金調達も検討されている。あわせて、国内調達の比率を高めて供給網を強くする方針も示された。数字の上の好況を、いかに裾野の広い成長につなげられるか。輸出や投資の伸びが一部の大企業だけの話で終われば、家計の実感は乏しいままになりかねない。見出しを飾る数字と暮らしの体感の差をどう埋めるかが、これからの経済運営の焦点になる。