タイ南部ナラティワート選出の現職下院議員、カモルサック・リーワメー氏の暗殺未遂事件をめぐり、奇妙な事実が浮かび上がっている。犯行に使われたとされる銃が、海軍の記録上は2020年に「破損し廃棄処分された」ことになっていたにもかかわらず、実際には問題なく使える状態だったというのだ。議員が所属するプラチャチャート党の党首は、軍の武器管理に深く切り込むよう、国会に調査の徹底を求めている。
「廃棄」されたはずの銃
事件の捜査の過程で、使われた銃が海軍に由来するものだと判明した。ところが、この銃は海軍の2020年の記録では「破損・廃棄」と処理されていた。にもかかわらず、鑑定の結果、銃は完全に作動する状態で、製造時の番号(兵器番号8122935)もそのまま残っていた。
つまり、書類の上では処分されたことになっている武器が、実際には壊されずに残り、外部に流出していた可能性がある。これは、軍の武器が本当に廃棄されているのか、それとも帳簿から消されただけなのか、という重大な疑問を投げかけている。タイでは以前から、治安部隊が管理する銃器が紛失したり横流しされたりして、事件や武装勢力の手に渡る問題が指摘されてきた。今回の銃も、その一例ではないかとの見方が出ている。
政府関係者に向く捜査
事件では、すでに逮捕者が出ている。捜査当局によると、容疑者には政府の職員が含まれるとされ、誰がこの襲撃を指示したのか、その「黒幕」の特定が焦点となっている。国家機関の関与の有無も調べられている。
プラチャチャート党を率いるタウィー・ソンソン氏は、国会の法務・人権委員会に対し、捜査をさらに深めるよう求めた。委員会は、捜査が本当に黒幕にまで届くのか、そして軍の武器廃棄の記録に問題がなかったかを見極めようとしている。
なぜ重大なのか
現職の国会議員が命を狙われ、しかもそこに国家機関の職員や、管理されているはずの軍の武器が絡む。これが事実であれば、法の支配や治安組織への信頼を根底から揺るがしかねない。
カモルサック氏が選出されたナラティワートは、長年、分離独立を求める動きと治安部隊の対立が続く深南部に位置する。プラチャチャート党は、ムスリムが多数を占めるこの深南部を地盤とする政党として知られる。その地の議員が標的となった背景に何があるのか。本記事の執筆時点で事件は捜査中であり、断定的なことは言えないが、武器の管理体制と襲撃の真相がどこまで解明されるかが、今後の焦点となる。
