タイのアヌティン・チャンウィラクン首相は6月10日、中国がカンボジアに主力戦車「T-59D」を100両近く供与すると伝えられたことについて、タイには関係なく懸念はないとの見方を示した。首相府で記者団に答えたもので、供与数が約100両に上るとの指摘には「タイ軍も備えはできている」と述べ、警戒というより冷静な対応を強調した。
中国製戦車の供与と首相の反応
T-59Dは、中国が旧ソ連の戦車を基に改良した59式戦車の発展型にあたる主力戦車である。これがカンボジア軍に多数渡るとの情報に対し、アヌティン首相は過度な反応を避けた。タイとカンボジアは長く国境の画定をめぐって対立を抱えており、軍備の動きは互いに神経をとがらせる材料になりやすい。それだけに、首相があえて懸念はないと語った意味は小さくない。
首相は先に、カンボジアのフン・セン氏による領土をめぐる発言に対しても、武力行使には慎重であるべきだと反論しており、今回の発言も一連の緊張のなかで出たものだ。
続く国境の緊張と停戦
タイとカンボジアの国境では2025年に武力衝突が起き、双方の戦車が向き合う事態にまで発展した。その後は停戦が成立し、2026年に入っても大枠は維持されているが、小規模な衝突や相互不信はくすぶり続けている。地雷の発見や有刺鉄線をめぐる対峙など、現場レベルの緊張も繰り返し報じられてきた。
今回の戦車供与の情報についても、タイの国家安全保障会議(NSC)は状況は管理可能だとし、戦車が国境付近へ移動した事実はないとの立場を示している。ネット上で流れたカンボジア軍の戦車移動説も、タイ陸軍は否定している。
中国からの兵器パイプライン
カンボジアはこの十年あまり、中国を主な供給元として軍備を増強してきた。今回のT-59Dもその流れの延長線上にある。国境衝突ではカンボジア側の中国製戦車とタイ側の戦車が交戦したとされ、タイ陸軍は自軍が運用する中国製戦車の信頼性を見直す動きも見せている。
大国の兵器が周辺国の力関係を静かに塗り替えていく構図は、タイにとって対岸の火事ではない。首相の懸念はないという言葉の裏で、軍と安全保障当局は隣国の装備の動きを注意深く追っている。
