観光地として知られるタイのサムイ島で、タクシー運転手の男性が複数の男に銃撃されて死亡した。客の奪い合いをめぐる「タクシー戦争」が背景にあるとみられ、警察は8人が事件に関与した疑いがあるとして行方を追っている。一方で警察は、サムイ島にタクシーマフィアは存在しないと組織的な背景を否定している。
ボープット地区で運転手が囲まれ銃撃された
殺害されたのは、31歳のタクシー運転手シカリン・プロムチャルーンさんである。5月23日の深夜から24日の未明にかけて、スラタニ県サムイ島のボープット地区で襲われた。
警察によると、シカリンさんは複数の男に取り囲まれて殴られたうえ、銃で撃たれた。体には6発の銃創があり、病院に運ばれたが命を落とした。観光地として知られる島で起きた殺害に、地元の運転手仲間にも衝撃が広がっている。
8人が浮上、1人はすでに拘束
警察はこの事件に8人が関わったとみて捜査を進めている。すでに1人の男がボープット署に拘束された。この男は被害者の車の窓をたたいたことは認めたものの、暴行そのものへの関与は否定しているという。残る容疑者については、順次逮捕状を請求している。
事件を受けて、警察は目撃者の保護措置にも乗り出した。被害者の妻はサムイ島での安全に強い不安を訴えているという。
警察は「マフィア」を否定
警察の報道担当者は、サムイ島にタクシーマフィアと呼べる組織は存在しないと強調した。そのうえで、有力なグループによる住民や利用者への迷惑行為は容認せず、地位や影響力に関係なく違反者は全員起訴する方針を示した。
組織的なマフィア構造は否定する一方で、地域の交通グループが持つ影響力への懸念は以前から広く指摘されてきた。今回の殺害は、その懸念が最悪の形で表面化したものといえる。
サムイ島の「タクシー戦争」とは
事件の根っこにあるのは、観光客という客の奪い合いである。サムイ島では、従来型のタクシーと、アプリで配車するサービスとの間で、乗客をめぐる対立が続いてきた。
空港やホテル、桟橋、ビーチへの入り口といった主要な乗降場所は、地元の交通グループが区域ごとに分け合う「キュー(順番待ち)」の仕組みで管理されているとされる。自分の区域の外で客を乗せようとした運転手は、車を取り囲まれたり、進路をふさがれたりするトラブルに見舞われることがある。こうした縄張り争いは、サムイ島だけでなくプーケットやホアヒンでも繰り返し問題になってきた。
タイの観光地では、タクシーやバイクタクシーの料金や乗車をめぐる摩擦に外国人旅行者も巻き込まれやすい。今回の事件は運転手同士の争いだが、その背景にある縄張りの構造は、観光客が割高な料金や乗車拒否に直面する問題ともつながっている。当局がこの構造にどこまで踏み込めるかが問われている。