タイ麻薬取締局(บช.ปส. / NSB)が2026年5月26日午後1時30分、バンコク郊外の果物倉庫を偽装した大麻製造・抽出工場に踏み込み、ベトナム国籍の4人を逮捕した。押収品は大麻花442kgを含む合計約500kg。中将アチャヨン・クライトン氏率いる捜査班は、伝統医療局・タイ食品医薬局(FDA)と連携して摘発を実施。同工場では大麻樹脂を圧縮した「大麻ガム(yaang ganchaa)」をブロック状に加工し、欧州へ密輸する産業規模のオペレーションだった。タイの大麻合法化(2022年6月)以来、外国人グループが「果物倉庫」「観葉植物販売店」「ハーブ茶店」などを偽装した違法製造拠点を構えるケースが急増しており、今回の摘発はその典型例となる。
5/26、ベトナム人4人逮捕、押収品約500kg
- 摘発日時: 2026年5月26日午後1時30分
- 指揮: 中将アチャヨン・クライトン(พล.ต.ท.อาชยน ไกรทอง)、タイ麻薬取締局(บช.ปส.)
- 協力機関: 伝統医療局、タイ食品医薬局(FDA)
- 逮捕者: ベトナム国籍4人
- グエン・トゥアナ氏 51歳
- ファム・タイ・ドゥン氏 49歳(女性)
- ド・ファン・ホワン氏 45歳
- ヴォー・ヴァン・アム氏 39歳
- 押収品: 大麻花442kgを含む合計約500kg、製造設備、抽出装置等
押収量約500kgは小売価格換算で数千万バーツ規模になる見込みで、密造工場としては大型クラス。
果物倉庫を偽装した「ステルス工場」型の手口
容疑者グループは、外見上は「フルーツ倉庫(โกดังเก็บผลไม้)」として運営し、隣接エリアで実際に果物の取り扱いも一部行っていた可能性がある。倉庫の奥深くに、大麻栽培エリア・抽出ラボ・圧縮加工ライン・梱包エリアを設置していたとみられる。
外見上は合法的な「フルーツ卸売業」を装うことで、近隣住民や警察パトロールに気付かれにくくする「ステルス工場」型の典型的な手口。最近のタイの違法薬物製造グループは、こうした表向きの事業を持つことで違法行為を隠す手法を多用している。
大麻ガムの製造工程、抽出→圧縮→ブロック化
押収品の中心は「大麻樹脂を圧縮した大麻ガム(yaang ganchaa adt thaeng / ยางกัญชาอัดแท่ง)」と呼ばれる加工品。製造工程は以下の流れになる。
- 大麻の花穂・葉から樹脂(THC含有量の高い部分)を抽出
- 樹脂を遠心分離・濾過で精製
- 加熱・圧縮して固形ブロック化
- 真空パックで梱包
最終形態のブロックは1個数百グラム〜数キログラム単位で、欧州への密輸時に効率良く運搬・隠匿できる。粉末や乾燥花よりも、大麻ガムは単位重量あたりの薬効成分が高く、密輸の収益性も高い。
欧州への密輸ルート、合法化の盲点を狙う
今回の摘発で警察が特に注目するのが、最終目的地が「欧州」である点。欧州の大半の国では大麻は違法だが、価格はタイの数倍以上で取引される。今回のグループは以下のような密輸ルートを構築していた可能性が高い。
- タイで製造→真空パック→国際郵便/特急便/海運コンテナで欧州へ
- 中継地: ヨーロッパ着前にトルコ、ドバイ、シンガポール等を経由
- 欧州内分配: ドイツ、オランダ、フランス、スペイン、英国の闇市場
- 決済: 仮想通貨(Monero、Bitcoin)、海外送金、現金受け渡し
タイは大麻合法化国であることが、皮肉にも「合法的な原料調達拠点」として国際犯罪組織に悪用される結果になっている。
2022年タイ大麻合法化、その後の闇市場拡大
タイは2022年6月、世界に先駆けて大麻の医療・産業利用を全面解禁。栽培・販売・自家利用が広く認められた。この大麻全面解禁の流れを受け、合法的な大麻ビジネスが急成長する一方、闇市場・密輸市場も以下のように拡大している。
- 合法的に栽培された大麻の一部が違法ルートに流れる
- 外国人がタイで原料調達→海外密輸の拠点化
- 観光客向けの違法販売(THC含有量規制を超える商品)
- 「ハーブ茶」「健康サプリ」を偽装した高THC商品の流通
タイ政府は2024年以降、規制を強化(THC含有量0.2%以下、医療用以外の屋外栽培制限等)しているが、闇市場の取り締まりは追いついていない状況。
外国人犯罪グループのタイ進出、新たな治安課題
タイで違法薬物製造に関わる外国人グループとして、過去5年で以下の国籍が摘発されている。
- 中国人: ヤバ(覚醒剤)製造、電子タバコ密造、暗号資産詐欺
- ベトナム人: 大麻製造、薬物密輸、人身売買
- ミャンマー人: 国境地帯でのアヘン栽培、不法滞在
- 韓国人: テレフォン詐欺、不法滞在
- インド人: 通称「ケタミン」(К粉)製造
特にベトナム人グループは、過去2年で大麻・薬物関連の摘発が増加傾向。タイ-ベトナム間のビザフリー渡航と、タイの大麻合法化が、犯罪組織の拠点化を助長している側面がある。
バンコク郊外、潜伏拠点の典型エリア
今回の摘発場所(郊外の倉庫)は具体的な町名・郡名がメディア発表ではぼかされているが、過去のパターンを見るとバンコク周辺・チョンブリー・チャチェンサオ・サムットプラカン・ノンタブリーなどが密造拠点として頻出する。これらエリアは以下の特性がある。
- 工業団地・倉庫密集地域で監視の目が届きにくい
- 高速道路アクセス良好で物流が機能
- 賃貸価格が比較的安く、大型物件を確保しやすい
- バンコクから1時間圏内で都心市場へのアクセスも良い
警察は今後も同様の偽装倉庫の摘発を続け、闇ルートの全体像解明を進めるとしている。
押収後の処分、被疑者の刑罰見通し
逮捕されたベトナム人4人は、タイの麻薬法に基づき以下の罪状で起訴される見込み。
- 規制薬物の製造・所持・密輸罪
- 規制薬物の輸出未遂罪
- 共謀罪(複数人による組織犯罪)
- 不法滞在(ビザ条件違反)
- 偽装事業の運営による詐欺罪
タイの麻薬製造・密輸罪は、量が大きい場合は最高で終身刑または死刑となる重罪。500kgの押収量は完全に該当する規模で、被疑者は長期の刑期が見込まれる。



