タイ証券取引所(SET)が2026年5月26日に公表した上場企業のQ1/2026決算集計で、SET上場813社の純利益が3,692億1百万バーツ(約1兆6,975億円)に達し、前年同期比+25.3%の大幅増となった。コア利益(本業利益)は5,069億3,900万バーツ(+56.5%)と、より顕著な伸びを記録。エネルギー・石油化学セクターが、中東紛争に伴う原油価格高騰で精製マージンが拡大して業績を主導した。観光関連・小売・テクノロジーの3セクターも顕著な伸びを示し、コロナ後の回復と日々の消費需要の堅調さを反映した。一方、商業銀行は経済減速で信用貸出の伸び率が低迷、一般製造業も売上・原価管理に圧力が続く構図。タイ経済の二極化と回復セクターの差が、上場業績にも明確に表れた四半期となった。
タイ上場813社Q1利益+25%、3692億B
タイ証券取引所(SET)発表の主要指標は以下の通り。
- 純利益: 3,692億1百万バーツ(+25.3%、前年同期比)
- 売上高: 4兆2,399億6,900万バーツ(+1.2%)
- コア利益: 5,069億3,900万バーツ(+56.5%)
- D/E比率: 1.28倍(前年同期1.34倍から改善)
特に注目される点は、売上が+1.2%しか伸びていないにも関わらず、コア利益が+56.5%と急増していること。これは原油価格高騰でエネルギー・石油化学企業の精製マージン(原料コストと最終製品価格の差)が拡大し、本業の収益力が一気に改善したことを示している。
エネルギー・石化セクターが業績を主導
最も業績を伸ばしたのが、エネルギーと石油化学。具体的な動向は以下の通り。
- 中東紛争(イラン・イスラエル等)で世界原油価格が高騰
- タイの精製業(PTT、PTT Global Chemical、ESSO、TOP、IRPC等)が原油価格上昇で精製マージン拡大
- 既存在庫の価値見直しで利益計上
タイの精製業は世界市場に対して比較的中規模だが、自国の燃料消費の大半をカバーしており、世界原油価格の動向が業績に直接反映する構造。原油価格1ドルの変動で、年間数十億バーツの利益が変動する規模感。
観光・小売・テックも顕著な成長
エネルギー以外で顕著な成長セクターは以下の通り。
- 観光関連: ホテル、航空、レストラン、ツアー(コロナ後回復の本格化、Q1の外国人観光客数増加)
- 小売: 大型商業施設、スーパーマーケット、家電量販店(国内需要堅調、物価上昇でも売上維持)
- テクノロジー: 通信(AIS、True、DTAC)、ITサービス、デジタル決済(キャッシュレス決済普及、政府デジタル政策)
タイ経済の構造変化として、コロナ後の3年間で観光・小売・テックの3セクターが上場業績の柱の一つに育っている。
D/E比率1.28倍、財務体質の改善
タイ上場企業全体のD/E(負債資本比率)は1.28倍と、前年同期の1.34倍から改善。これは以下の要因による。
- Q1の純利益増加で内部留保が積み上がった
- 一部企業が積極的に債務返済を進めた
- 株式市場での資金調達を活用した借入返済
D/E比率1.28倍は、日本の上場企業全体平均(約1.0倍)よりやや高いが、新興国市場としては健全な水準。タイ企業の財務体質は、コロナ前のレベルに戻りつつある。
商業銀行と一般製造業、二極化の片側
一方、業績圧迫が続くセクターは以下の通り。
- 商業銀行: 経済減速で信用貸出の伸び率が低迷、不良債権処理コスト負担、純金利マージン圧迫
- 一般製造業: 売上伸び鈍化、原価管理に圧力、輸出向け製品の競争激化
- 自動車: タイ国内販売の低迷続く(2025年実績で前年比-26%)
タイ経済のサービス業・観光業は回復しているが、製造業・銀行業は構造的な圧力が続いている。「セクター別二極化」がタイ経済の現状を表すキーワードになっている。
MAI市場、中小型株も+25%伸び
タイ証券取引所のMAI市場(中小型株・成長企業向け)も以下の業績。
- 売上: 516億6千万バーツ(+3.3%)
- 純利益: 25億2,600万バーツ(+25.3%)
MAI市場の純利益伸び率(+25.3%)はSET本市場と同等で、中小型企業も同様に好業績を上げていることを示す。タイの成長企業全体に好循環が広がっている。
円換算で1兆7千億円規模、日本市場と対比
主要指標を円換算すると以下の通り(1B=4.6円換算)。
- 純利益: 3,692億B → 約1兆6,975億円
- 売上: 4兆2,400億B → 約19兆5,040億円
- コア利益: 5,069億B → 約2兆3,317億円
参考までに、日本の上場企業全体のQ1純利益(2026年1-3月期)は約8兆円規模で、タイは日本の約2割の水準。タイの上場市場規模(SET+MAI、約820社)に対して、利益額は健全な水準と評価できる。
製造業苦戦下、観光・小売・テックに資金シフト
タイで事業展開する日系企業(SET上場している日系子会社も含む)にとって、今回の業績は以下のような意味を持つ。
- タイの全体景気は回復基調(エネ・観光・小売・テック)
- ただし製造業は引き続き厳しい(自動車・家電のサプライチェーン)
- 銀行業は債権管理を慎重に
- 円安・バーツ高傾向で日本からの投資環境は依然として良好
タイ進出を検討している日系企業も、こうした上場業績データを参考に、参入セクター・規模を判断する材料となる。
SET指数とバーツ相場、市場の反応
5月26日の業績集計発表を受けて、タイ証券取引所のSET指数とバーツ相場は以下の動向となった。
- SET指数: エネルギー・石化セクター主導で上昇
- バーツ相場: 対ドルで小幅高、対円で安定
- 外国人投資家: ネット買い超過(短期売買主体)
- 国内機関投資家: エネ・観光株への積極投資
今後、Q2/2026の業績がエネ・石化の継続成長と、製造業・銀行業の構造改革にかかっている。
今後の展望、原油価格と中東情勢に依存
Q2/2026以降の業績見通しは、以下の要因に依存する。
- 中東情勢の安定(イラン・イスラエル紛争の鎮静化)
- 原油価格の動向(高止まりが続けばエネ・石化はさらに好業績)
- 観光客数の継続増加(年間3,500万人目標達成)
- 自動車セクターの回復(中国EV競合との競争)
- 米国・中国経済の動向(貿易・為替への波及)
タイ証券取引所は、上場企業の業績集計を四半期ごとに公表しており、次回はQ2/2026決算が8月頃に発表予定。


