タイ運輸省のシリーポン・スワンナラット大臣補佐(สิริพงศ์ อังคสกุลเกียรติ)は2026年5月25日、タイ国鉄技術開発機構(สทร / STR: Office of Railway Technology Development)に対し、3つの鉄道近代化プロジェクトの加速を指示した。中核となるのは、JR西日本(JR West)から取得した50年以上の旧型日本車両5両を高級観光列車に改造する事業(予算6,500万バーツ・年末完成)。さらに、タイ製ディーゼルエレクトリック・ハイブリッド機関車「ガオ(ง้าว / Ngao)」のプロトタイプ開発(2年計画・編成あたり約4億バーツ)、バンコク市内の信号未設置踏切22箇所への自動信号システム導入(道路安全基金活用・年内完成)も並行して進める。長距離夜行寝台列車・国際鉄道接続(マレーシア・ラオス・カンボジア)・北部観光地アクセスなど、タイ国鉄を取り巻く需要構造の変化に対応する内容となっている。
JR西日本の50年旧車両5両を高級観光列車に改造
第1の事業は、JR西日本(西日本旅客鉄道)から取得した50年以上経過した旧型車両5両を、高級観光列車として再生する内容。日本国内で長年運行されてきた車両がタイに渡り、外装と内装をフルリノベーションして、国際的水準の観光ツーリスト車両に生まれ変わる。予算は6,500万バーツ(約3億円)で、2026年末までに改造完了・試験走行を予定している。タイの鉄道観光は、北部チェンマイ・東北部ウドンタニ・南部スラタニ-スンガイコロックなど風光明媚なルートを抱えており、高級観光列車への投入で訪日インバウンド顧客の鉄道滞在型ツーリズム市場開拓が狙いとなる。
タイ製ハイブリッド機関車「ガオ」、2年計画でプロトタイプ完成
第2の事業がタイ製ハイブリッド機関車「ガオ(ง้าว / Ngao)」プロジェクト。タイ語のงาว(ガオ)は伝統的な槍状の武器を指す名前で、タイ独自の技術力を象徴する命名となっている。推進方式はディーゼルエレクトリック・ハイブリッド(Diesel Electric Hybrid)で、ディーゼル発電機が電気を生成、それで電気モーターを駆動する構造。将来的には電気架線充電や蓄電池搭載にも対応できる設計で、段階的に脱炭素化を進める拡張性を持つ。
現在は「プロトタイプ・エンジニアリング設計」段階で、エンジニアリング期間が約1年、その後の機能プロトタイプ完成は2028年頃の見込み。1編成の構成は双方向機関車1両+客車約4両で、総コストは約4億バーツ(約18億4,000万円)、1両あたり1億バーツ(約4億6,000万円)の概算。さらに、暑帯気候から冷帯気候(暑→冷暖)への対応プロトタイプ車には別予算1,200万バーツが組まれている。
バンコク踏切22箇所、年内に自動信号システム導入
第3の事業はバンコク市内の信号未設置踏切22箇所への自動信号・警告システム導入。これらは「違法横断点(จุดลักผ่าน / illegal crossing points)」とも呼ばれ、住民が線路を勝手に横断する地点で、毎年人身事故が発生している危険箇所。タイ運輸省はこれらに自動信号システム、警告サイン、アラート機構を設置することで、踏切事故の削減を目指す。財源は道路安全基金(Road Safety Fund)から拠出され、2026年内の完成が目標とされる。
タイ国鉄の構造改革、観光・近代化・安全の3本柱
シリーポン運輸大臣補佐の今回の指示は、タイ国鉄(SRT: State Railway of Thailand)の構造改革における3本柱を明確にする内容となっている。1つ目は観光価値向上(高級観光列車)、2つ目は技術自立化(タイ製ハイブリッド機関車の自国開発)、3つ目は運行安全性向上(踏切自動信号化)。これらは、バンコク-チェンマイ夜行、バンコク-スラタニ夜行、バンコク-ノンカイ(ラオス国境)、バンコク-スンガイコロック(マレーシア国境)といった主要長距離路線の競争力向上に直結する内容で、航空・バス・自家用車との競争力を取り戻す動きと位置付けられる。
JR西日本との連携、日本車両のセカンドライフが続く
タイで日本の中古鉄道車両が「セカンドライフ」を歩むパターンは、これまでも複数の事例があった。JR北海道のキハ183系がアジアンディーゼルとしてタイ国鉄(SRT)に渡り、近年は観光列車として運用されている例も知られている。今回のJR西日本5両も、こうした日本車両のタイ再活用の流れの一環。日本では退役するレベルの古さの車両であっても、内外装をフルリノベーションすれば、東南アジアの鉄道インフラとして十分に通用するクオリティを持つことの実証と言える。
バンコク-チェンマイ夜行寝台にラグジュアリー型が加わる可能性
タイ国鉄の長距離路線・観光列車は、在タイ日本人・日本人観光客にとっても利用機会の多い交通手段。バンコク-チェンマイ線の夜行寝台「ウタラウィティ」や、バンコク-スラタニ線の夜行寝台は、コロナ後の観光需要回復とともに利用者が増加傾向にある。今回のJR西日本車両の観光列車投入で、これら路線にさらにラグジュアリー型の選択肢が加わる可能性があり、鉄道ファン・観光業界にとって注目度の高い案件となっている。

