タイの汚職委員会(ป.ป.ช./PACC)と警察、特別捜査局(DSI)が4月29日に展開した作戦「ย้อนเกล็ดมังกร(龍の鱗を逆なで)」で逮捕された6人の素性が翌4月30日に判明し、その背景がさらに大きな広がりを持つことが明らかになった。捜査側の発表によれば、逮捕されたのは中国国籍の2人とタイ国籍の4人で構成される組織で、うち一部は2567年(2024年)に発覚したタイ国内の中国人詐欺事件(被害額7万ลานバーツ=約700億バーツ/約3,150億円規模)にも関与していた疑いが浮上した。
容疑者は2グループに分けられる。第1グループはバンコク区登記事務所の現役公務員と協力したタイ人ブローカー、第2グループは中国人2人を含む偽書類斡旋組織だ。中国人容疑者の一部は2024年の中国人投資家を狙った巨額詐欺事件で「協力者」「資金移動担当」「窓口」のいずれかの役回りを担っていたと捜査機関は見ている。同詐欺事件はタイから中国本土の被害者8,000人余に対して仮想株式投資を装った勧誘を行い、約700億バーツ規模の被害を生んだ大規模事件だった。
捜査は4月のコラート州プロックラン町(ナコーンラーチャシーマー県)で27人の中国グレー(不法滞在中国人)が虚偽の出生登録を受けていた事件をきっかけに全国に拡大していた。今回の逮捕により、タイの戸籍偽造ネットワークが「単なる地方役場の腐敗」ではなく「中国国際詐欺組織と連携してタイ国籍を不正取得し、捜査の手から逃れる仕組み」であった可能性が示された。タイ国籍を取得すれば中国国際刑事警察機構(INTERPOL)の身柄拘束要請を回避できる手段になる。
逮捕現場は4箇所で、合わせて発行済みの偽出生証明書、未発行の白紙書類、印章、登録システムのアクセス記録、現金、複数の中国SIM入りスマートフォンが押収された。容疑は「公務員の職務不正行為(タイ刑法第157条相当)」「公文書偽造」「組織犯罪法違反」など複数項目で、最高で終身刑が科される可能性がある。検察は今回の6人を起点に、ネットワーク全体の20〜30人規模の追加摘発を視野に入れて捜査を進めている。
在タイ日本人にとっては「タイ人になりすました中国人犯罪者がタイ社会に紛れ込んでいる」現実が改めて示された事件だ。日系企業のタイ人スタッフ採用、不動産取引、銀行口座開設の場面で本人確認書類のチェックがますます重要になる。タイ警察と内務省は今後、過去5年分の出生登録データの遡及監査を実施する方針を打ち出しており、戸籍制度全体の信頼回復に時間を要する展開となりそうだ。