タイ北部メーホンソン県メーラーノイ郡で4月26日、La川流域に住むカレン族・ルア族の住民400人以上が、計画されているフルオライト(蛍石)鉱山プロジェクトに反対する大規模デモを行った。Rak Lum Nam La Network(La川保全ネット)、EarthRights International、Amnesty International Thailandの3団体が共同で開催し、「鉱山ではなくコミュニティだけ(no mine, only communities)」というスローガンで土地と環境への権利を主張した。
メーホンソンは中国国境とミャンマー国境に挟まれた山岳地帯で、観光地パイへの「メーホンソン・ループ」の起点としても知られる。今回のデモが起きたメーラーノイ郡La川流域は約5村500人が暮らし、住民は伝統的にカレン族とルア族の先住民族が中心だ。森と川に依存した自給的な生活が今も続いており、鉱山開発が始まれば生活基盤が直接破壊されるという懸念が運動の核心になっている。
フルオライトはほたる石とも呼ばれる鉱物で、製鉄や非鉄金属製造で不純物を除去するフラックス剤として欠かせない。鉄1トンを精錬するのに約18キログラムが必要とされ、世界の需要は安定して大きい。タイ国内のフルオライト採掘量は2022年に5万9243トンに達し、2018年比で3倍以上に膨らんだ。2018年から2022年の5年間で合計12.5億バーツの輸出額となり、タイ政府は鉱物資源輸出の有望産業と位置付けている。
しかし住民側は、鉱山候補地が最も近いウィライポーン村から約500メートルしか離れていない点を重く見ている。フルオライト採掘では大量の水と化学薬品を使い、廃液がLa川を通じて下流の村と農地に流れ込むリスクがある。一度汚染されれば飲用水・灌漑水・薬草採取の場が失われ、村の生活基盤そのものが壊滅する。住民の懸念は理論ではなく、隣接するレーイ県のメコン川で2か月で3匹続けてこぶだらけの魚が見つかった事例(ヒ素汚染の疑い)や、メージョー大学が指摘するメコン川のヒ素濃度が基準の9倍に上った中国資本の上流鉱山問題と、構図が重なる。
運動は2022年に開始され、2026年で4年目に入る。2023年にはRak Lum Nam La Network(直訳: La川を愛する会)が結成され、人権弁護士スミットチャイ・ハッタサン氏が法的支援を担当している。これまでに環境影響評価(EIA)の手続きが正式に開始されていないため、住民は「EIAが始まる前に計画自体を白紙化させる」という戦略を取っている。EIAが始まると企業側が条件付きで通せる確率が上がるためだ。
タイの先住民族による鉱山反対運動は他にも例があり、レーイ県の金鉱山反対闘争(10年以上続き最終的に企業撤退に追い込んだ)が代表的だ。しかし企業側にとって資源は数百億円規模の投資対象でもあり、政府の許認可ルートを通じて押し切られることも少なくない。今回のメーラーノイの闘争はEIA開始前の段階で4年目を迎えており、住民側がどこまで持ちこたえられるかが焦点になっている。
EarthRightsとAmnestyが介在することで、運動は国際的な人権・環境ネットワークと結びついた。日本も鉄鋼業の原料輸入で間接的にフルオライト需要を支える側にあり、サプライチェーンの上流でこうした地域社会の闘争が進んでいる事実は、純粋にタイの地方ニュースで終わらない側面がある。