タイのピパット・ラチャキッチプラカン副首相兼運輸相は4月25日、プム・ジャイ・タイ党本部で記者会見し、南部ランドブリッジ計画(1兆バーツ規模)の閣議承認を6月に上程すると表明した。アヌティン・チャーンウィーラクン首相兼内務相が同計画の継続検討に同意したことを受けた手続き加速で、目標は2026年第3四半期(7〜9月)中の民間投資家公募開始である。
南部ランドブリッジは、アンダマン海側のラノーン県と、タイ湾側のチュンポーン県を高速道路と鉄道で結ぶ巨大インフラ構想だ。両海岸に深水港を新設し、コンテナ船・タンカーを中継する代替ルートとしてマラッカ海峡・ホルムズ海峡の混雑回避を狙う。ピパット副首相は「ホルムズ海峡周辺の不安定化が長期化する局面はタイにとって好機」と位置付けた。
タイ政府は事業費を直接負担せず、用地の長期コンセッション(借地権)のみを民間投資家に供与する形式を採用する。事業者は港湾・鉄道・高速道路の建設運営費を回収する権利を得る。1兆バーツの財政負担なしでインフラを整備できる枠組みであり、財政規律と国際情勢を両睨みする巧妙な設計である。
批判の中心はコンテナ船の積み下ろしによる時間ロスと環境影響だが、ピパット副首相は世界のコンテナ船輸送量の9割以上が「トランシップメント(中継積替)」であり、シンガポールやドバイの中継港経済モデルが参照可能と反論した。集積した複数地点発の貨物を再仕分けして各国向けに送り出す構造であれば、二段階の積み替えは商業的にも物流効率上も妥当だという議論である。
環境影響については沿岸州の住民との対話で個別に説明し、合意形成を先行させる方針を示した。1兆バーツ規模のメガ案件は環境アセス、用地買収、地元雇用の各局面で深刻な摩擦が生じる可能性があり、ラノーンとチュンポーンの両県では既に反対の住民組織が存在している。
実現すれば日本企業のサプライチェーンにも影響が大きい。バンコク以南のタイ湾沿岸はトヨタ、ホンダ、いすゞ、デンソーの製造拠点が集中し、ランドブリッジが完成すれば中東向け輸出ルートの選択肢が増える。一方で、現状のレムチャバン港・マプタプット港の集約効果が分散される可能性もあり、現状の物流構造との接続設計が今後の焦点となる。