タイ西部プラチュアブキーリカン県バンサパーン郡のココナッツ農家が、買取価格の急落に耐えかねて集団で抗議に立ち上がった。料理用ココナッツ(マプラオ・ケン)の出荷価格が、今では1個7バーツまで落ち込み、収穫や採取を外注した後に農家の手元に残るのはわずか4バーツという現実が暴かれた。
農家たちが大きなプラカードに書き出した計算式は切実だ。「1個7バーツ。採取費2バーツ、収穫費1バーツを差し引くと手元に残るのは4バーツ」。この数字が農家の日常を一枚の板で突きつけた形になった。コストと価格のあいだに生活を支える余裕は残っていない。
事態を受けて、バンサパーンを中心とした複数の地域の農家が集結し、アヌティン首相が現地レストランで食事をしていたタイミングに合わせて直接陳情に出向いた。店内ではなくレストラン前で大声や掲げたプラカードで状況を訴え、「このままでは園を放棄しなければならない」「外からのココナッツ輸入を止めてほしい」と政府の介入を求めた。
背景にはタイ国内のココナッツ市場と輸入品の競合がある。近年、食品業界の大口ユーザーがベトナムやインドネシアから大量に輸入した方が原価が下がるとして、国内買取価格が押し下げられてきた。一方、原油と肥料、雇用費用の上昇で、農家側の生産コストは年々膨らんでいる。
タイの食卓にとってココナッツは、グリーンカレー、マッサマン、トムカーガイなど名物料理の土台をなす食材である。この原料を支える農家が4バーツの手取りで持ちこたえられなくなれば、加工業者を含めたサプライチェーン全体が縮んでいく。
同じ日に別の農家団体は、政府の商務省にもココナッツ油と料理用ココナッツの価格下支え策、輸入数量割当の見直し、畑から消費地までの物流補助の新設などを求める要望書を提出した。ゴムなど他の農作物でも似た構図が起きており、一次産業全体への支援パッケージの議論につながる可能性がある。
タイ駐在の日本人にとっても、スーパーで売られているタイカレーペーストやココナッツミルク缶の値段が、遠く離れたバンサパーンの農家の悲鳴とつながっていることが改めて見えてくる。料理名物の値段を支える裏側で、誰がどれだけの取り分を受け取っているのか。「安いタイ料理」の構造を問うニュースでもある。