ナラティワット県バチョー郡ペッチャカセム通りで3月20日未明、プラチャチャート党のカモンサック・リーワモ下院議員(ナラティワット第5区)のミニバンに白いトヨタの4ドアピックアップから武装グループがM16で発砲した狙撃事件で、警察は23日、最後の容疑者である元海兵のウィロチ大尉(姓非公表)を逮捕した件の詳細を公表した。
事件当時、ミニバンはカモンサック議員の自宅前に到着した直後で、同乗していた運転手のウチャランさんと追跡していた警察官ハリラック副警部補が重傷を負った。カモンサック議員本人は無事だった。発砲に使われた白いトヨタ・ピックアップは、ナラティワット県の内部安全保障作戦司令部(ISOC)所属車両だったことが早い段階から判明しており、軍の内部関係者の関与疑惑が捜査の焦点になってきた。
ナラティワット県裁判所はこれまでに5人分の逮捕状を発行し、警察は段階的に身柄を押さえてきた。すでに押さえていた4人は調整役のソムポーン氏、運転手のアラウィ氏、車両を隠した整備工場関係者のスントーン氏、元海兵レンジャーで実行犯とされるタナパット氏で、今回のウィロチ大尉の逮捕で全員の身柄が確保された形になる。
警察の調べに対してウィロチ容疑者は、事件直後にサンクラブリー郡方面へ逃走した経路や、車両として使われたISOCのピックアップを同機関から借り出した経緯、そして自身の海兵時代の略歴までを含めて供述を始めたという。白いピックアップは犯行後に別の整備工場で塗装替えや一部解体が行われ、追跡を撹乱する工作がなされていたこともあらためて確認された。
ISOC関連の公用車両が政治家襲撃に使われていた点は、4月に人権監視団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが国際的な声明を出すなど、タイの南部治安政策をめぐる論争を再び呼んでいる。アヌティン首相とISOC側の将軍は4月中旬に議員と国民に対する謝罪を公にしており、今後は刑事裁判と並行して、なぜ公用車両が私的襲撃に使われる状態にあったのかという制度的な責任追及が続くことになる。
カモンサック議員はムスリム法律家財団でタクバイ事件の遺族支援に長年関わってきた人権弁護士でもあり、南部3県における国家安全保障機関の運用を一貫して問題視してきた立場だ。今回の全容解明は、単なる個人的な襲撃事件の解決にとどまらず、南部の政軍関係を揺さぶる大きな論点として議論が広がる見通しである。
タイ駐在の日本人にとっても、南部3県への出張や現場視察はこれまで以上に慎重な判断が求められる局面に入った。国家機関に属していた人間が個人や団体を標的に発砲する事件が現実に起きた以上、日本側の企業保安担当者も、南部での活動計画について現地警察・領事館・現地パートナーとの連携をあらためて点検したい。