タイ最大手の日刊新聞「タイラット」紙が、2026年5月1日から1部あたりの販売価格を15バーツに引き上げると発表した。これまで長年維持されてきた10バーツから5バーツ高くなり、消費者感覚としては50%の値上げに相当する。
同紙の発表によれば、値上げの直接の理由はタイおよび世界のエネルギー危機で、紙やインクといった原材料費、印刷用電力、そして全国の販売網へ新聞を配達する物流コストのすべてが急速に跳ね上がっていることにあるという。
タイラットは1962年の創刊以降、庶民に手が届く価格の紙面を軸に、市街地・地方の売店やコンビニエンスストアで毎朝積み上げられてきた新聞文化の象徴でもある。価格が10バーツから15バーツに動くのは、デジタル移行の波の中で紙媒体の経済構造そのものが崩れ始めているタイの現状を象徴する動きでもある。
タイの紙面市場はここ数年、大手各社がオンライン版に力を入れ、紙面の発行部数を絞り込む方向で経営を立て直してきた。一方で、年配の読者層が駅前売店やコンビニで購入するルートは依然として根強く、タイラットのような全国紙は「価格の据え置き」を販売戦略の柱にしてきた経緯がある。今回の値上げはその線を切る決断だ。
エネルギー価格の急騰は、イラン戦争によるホルムズ海峡経由のサプライチェーン混乱と、タイ国内でのディーゼル補助金縮小など複数の要因が重なって引き起こされている。タイ政府はガソリン・ディーゼルの小売価格を頻繁に上下させており、物流費が中心コストになる新聞・物流・宅配業の採算を直接揺さぶっている。
他の大手紙(マティチョン、カオソッド、デイリーニュース等)が追随して値上げに踏み切るかどうかは、今後1〜2ヶ月で判明する見通しだ。業界関係者は「タイラットが動いた以上、他紙も赤字を続けるのは難しい」との見方を示しており、5バーツの値上げドミノが広がる可能性が高い。
タイ在住の日本人にとっては、屋台や理髪店の待合で読まれるタイ語新聞の値段が変わるだけに見えるかもしれない。しかし、タイ語を勉強している駐在員や、店頭広告の値段感覚で経済の体感温度を計っている人にとっては、朝の習慣の料金表が書き換えられる具体的な指標となる。


