バンコクの美容クリニックで痩身目的の注射を受けた女性が体調を崩し、緊急入院する事態となった。女性の夫がSNSで経緯を公開し、当局に調査を求めている。注射に使われた製品はタイの食品医薬品局(FDA)に登録されておらず、医師ではないクリニックの従業員が、事前の問診や検査もないまま打ったとされる。手軽さをうたう「痩身ペン」の安全性に、改めて疑問が投げかけられている。
何が起きたのか
夫がフェイスブックで明らかにしたところによると、妻は5月31日、バンコク・ラムインドラ地区のクリニックで痩身用の注射を受けた。施術したのは医師ではなく従業員で、体調の確認や血液検査といった事前のスクリーニングは行われなかったという。
注射のあと、女性はめまいや嘔吐、体の痛みを訴え、食事もとれなくなった。夫は投与量が過剰だった可能性を指摘している。女性は病院に運ばれ、慎重に経過を見守る状態が続いたとされる。体重は49キロで、医学的に減量が必要な状態ではなく、あくまで美容目的だった点もSNSで批判を集めた。
未登録の製品と無資格の施術
夫によれば、クリニック側は当初、妻が事前に調べていた製品とは別のブランドを勧めたという。両者は似ているが、勧めた方が副作用が少ないと説明されたとされる。だが、その製品はタイのFDAに登録されておらず、クリニック側は「米国で登録済みで、タイでの登録は申請中」と説明したという。
クリニック自体は正規に登録された施設だったが、医師の関与がないまま、登録されていない注射薬が使われた形だ。医薬品のFDA登録は、有効性や安全性、品質が審査されたことを示す手続きであり、未登録の薬は、こうしたチェックを経ていないまま使われていることになる。夫はすでに関係当局へ通報し、クリニックに対する法的措置に踏み切ったとしている。本記事の執筆時点で、クリニックおよび当局からの公式な説明は確認されていない。
「痩身ペン」をめぐるリスク
近年、体重管理を目的とした注射薬が世界的に広がり、タイでも美容クリニックなどで手軽に受けられるようになっている。こうした痩身注射には、もともと糖尿病や肥満症の治療に使われるGLP-1受容体作動薬などが用いられることが多い。食欲を抑える一方で吐き気や嘔吐などの副作用が出やすく、少量から体に慣らしながら用量を調整するのが原則とされる。
だからこそ本来は、医師が体質や持病を確認したうえで適応や用量を見極め、副作用に注意しながら使うべき薬である。医師でない人物が、問診も検査もせずに注射するような施術には、過剰投与やアレルギー、体調の急変といった危険が伴う。価格や手軽さだけで選ぶのではなく、施術者の資格、使う薬剤がタイで正規に承認されているか、緊急時の対応体制があるかを確認することが、トラブルを避けるうえで欠かせない。