タイ北部ランプーン県で、突然取り乱して手がつけられなくなった女性を、警察官が地元の民間信仰に寄り添う形でなだめ、無事に帰宅させる出来事があった。近隣の住民は、北部に伝わる精霊「ピーガ」が女性に取りついたのではないかと信じて不安がっていた。駆けつけた警官は、その信仰を頭ごなしに否定せず、地域のやり方に沿って対応したという。
「ピーガが憑いた」と怯える住民
出来事があったのは6月1日の夜7時半ごろ、ランプーン県トゥンフアチャーン郡の集落だ。一人の女性が突然、自分を抑えられなくなって異常な様子を見せたとして、住民から警察に通報があった。近隣の人々の間では、この地方に伝わる「ピーガ」と呼ばれる精霊が女性に取りついたのではないか、という不安が広がっていた。北部では、ピーガは人にとりつくとされる悪い霊として古くから語り継がれ、家系に受け継がれるとも言われて、地域によっては強く恐れられてきた。それだけに住民の動揺は大きかった。
信仰を否定せずなだめた警官
通報を受けて駆けつけたのは、トゥンフアチャーン署のタナコーン副巡査部長らのパトロール隊だ。警官たちは、住民の不安を「迷信だ」と切り捨てるのではなく、地域の信仰に沿った形で女性に語りかけた。いわば「呪術師」のように振る舞いながら落ち着かせると、興奮していた女性は次第に静かになったという。そして女性を無事に自宅まで送り届けた。力ずくで取り押さえるのではなく、本人やまわりの人々が信じるものに寄り添った対応が、事態をおだやかに収めた。
北部に根づく精霊への信仰
タイ、とりわけ北部では、精霊や目に見えない力への信仰が今も人々の暮らしに深く根づいている。体調の急変や心の不調が、霊のしわざと受け止められることも少なくない。医学的に見れば別の説明がつく場合もあるが、当事者や家族が信じる世界を頭から否定すれば、かえって不安をあおりかねない。タイには、家や土地を守る精霊の祠を祀る習慣が広くあり、人々は日常のなかで目に見えない存在と共に暮らしている。強いストレスや心身の不調が「憑依」として受け止められることもあるが、地域ではまず信仰の枠組みで理解されることが多い。今回の警官の対応は、地域の文化を尊重しながら問題をおだやかに解く一つの形として、住民から好意的に受け止められた。