タイのアヌティン首相が、米国との関税交渉を早期にまとめるよう商務省に指示した。タイが米国へ輸出する際の現行の関税率(19%)が7月24日ごろに期限を迎えるとされ、それまでに少しでも有利な条件で決着させ、タイの輸出を守る狙いがある。首相府の報道官が明らかにした。
36%から19%へ、続いてきた交渉
タイと米国の関税交渉は、2025年に大きく動いた。トランプ政権が2025年に各国へ打ち出した「相互関税」をめぐり、タイは当初36%という高い税率を突きつけられた。タイは米国に対して大きな貿易黒字を抱えており、それが高関税の理由の一つとされた。約7か月に及ぶ粘り強い交渉の末、税率は19%まで引き下げられた。とはいえ19%という水準も決して低くはなく、輸出企業の負担は依然として重い。それでもアヌティン首相は、ASEAN首脳会議やAPECの場でトランプ大統領に直接働きかけ、19%よりさらに低い税率と、より良い貿易条件を求めてきた。今回の指示は、その流れを引き継ぐものだ。
7月の期限を前に詰めの局面
首相は商務省に対し、未解決の論点を片づけ、現行の枠組みが期限を迎える前に交渉をまとめるよう求めた。商務省も、7月をめどに交渉を終える意向を示している。関税率の水準だけでなく、対象品目や、どこまでをタイ製と認めるかという原産地のルールなど、詰めるべき点は多い。交渉では、米国側もタイ市場への農産品や工業製品の輸出拡大を求めているとみられ、双方が折り合える落としどころを探ることになる。限られた時間のなかで合意にこぎ着けられるかどうかが、当面の焦点だ。
輸出依存のタイ経済に直結
米国はタイにとって最大級の輸出先であり、関税の水準は自動車部品や電機・電子、ゴム、加工食品といった幅広い産業の競争力を左右する。関税が高いまま固定されれば、輸出企業の収益や、そこで働く人々の雇用に響きかねない。タイにはトヨタやホンダをはじめ日本企業の工場も多く、そこで作られた製品が米国へ輸出される例も少なくない。関税の動向は、タイに生産拠点を置く日本企業の経営にも関わってくる。タイ経済はもともと輸出への依存度が高く、近隣のASEAN諸国とも米国市場を奪い合う関係にある。だからこそ、税率がライバル国より高いか低いかは死活問題になる。対米交渉の行方は、国全体の景気を占ううえでも見逃せないテーマだ。ベトナムやインドネシアなど周辺国もそれぞれ米国と税率を交渉しており、条件の差がそのまま輸出競争力の差につながる。交渉が決裂したり税率が再び上がったりすれば、輸出の落ち込みを通じて景気全体に冷や水を浴びせかねない。逆に有利な条件で早期にまとまれば、企業は生産や投資の計画を立てやすくなる。政府が限られた時間で、どこまで有利な条件を引き出せるかが問われている。