タイ南部の観光地サムイ島で、当局が5月28日、タクシー業界の一斉取締りに乗り出した。きっかけは、前週の日曜に起きたタクシー運転手の射殺事件である。背後には縄張りを支配する「タクシーマフィア」の存在が指摘されており、行政・警察・観光警察などが合同で、客待ち場所を不当に独占するグループの取り締まりに動き出した。
発端となったタクシー運転手の射殺事件
事件が起きたのは前週の日曜だった。サムイ島で1人のタクシー運転手が銃で撃たれ、命を落とした。タクシーの縄張りをめぐる争い、いわゆる「タクシーマフィア」による襲撃とみられている。
殺された運転手は一家の大黒柱だった。亡くなるわずか1か月前に子どもが生まれたばかりだったという。残された家族の境遇に、島内では同情の声が広がっている。事件をめぐっては、これまでに容疑者1人が逮捕されたが、なお8人が指名手配されたまま逃走を続けており、警察が行方を追っている。
28日に始まった業界の一斉取締り
この事件を受け、サムイ島の当局は5月28日、タクシー業界全体への取り締まりを開始した。指揮を執るのは郡長のアモン・チュムチュアイ氏である。郡の職員に加え、陸運当局、警察、観光警察、自治体の職員が合同で動く大がかりな体制が組まれた。
取り締まりの主な標的は、公共の場所を不当に占拠し、ほかの運転手の営業を妨害してきたとされる客待ちグループだ。特定のグループが道路や客待ちスペースを縄張りのように囲い込み、新規参入や競合を力で排除する。そうした構造が、今回の射殺事件の背景にあるとみられている。
免許停止やナンバー剥奪など具体的な措置
当局が打ち出した措置は具体的だ。違反者に対しては営業免許の停止や、車両ナンバープレートの取り消しといった厳しい処分が科される。ほかの運転手を脅したり、営業を妨害したりする行為も取り締まりの対象となる。
あわせて、メーターを正しく使っているか、運転手の服装は適切か、客の乗降場所は決められた通りかといった、日常的な営業ルールの順守状況も点検される。違反には陸運法に基づく罰則が適用される。当局は、正規に登録されたタクシーであれば誰もが島内全域で平等に営業する権利を持ち、特定のグループが公共の道路や客待ち場所を独占することは許されない、との原則を改めて示した。
観光地サムイ島の信用を守れるか
アモン郡長は、問題を放置して本格的な対応を取らなければ、サムイ島の観光地としてのイメージが損なわれかねないとの危機感を示している。サムイ島はタイ湾に浮かぶ有数のリゾート地で、日本を含む各国からの観光客でにぎわう。移動の足であるタクシーをめぐるトラブルは、旅行者の安全や島全体の評判に直結する。一人の運転手の死をきっかけに始まった今回の取り締まりが、根深いとされる縄張り構造にどこまで切り込めるのかが問われている。