タイ・デジタル経済社会省(MDES / กระทรวงดิจิทัลเพื่อเศรษฐกิจและสังคม)傘下の国家デジタル経済社会委員会事務局(ONDESC / สดช.)が2026年5月25日、国民向けプレミアム生成AI(Generative AI)無料アクセスプログラム「TH-AI Passport(タイAIパスポート)」を発表した。タイ国民5百万人(タイ政府主導プログラムでは過去最大規模の一つ)に対し、ChatGPT、Claude、Gemini、Midjourneyなどの海外大手AIサービスの「プレミアム機能」を1年間無料で提供する内容。予算は1,621百万バーツ(16.21億B、約74億円)で、2026年6月に登録開始予定。中央ダッシュボードからユーザーが希望AIツールを選択する仕組み。MDES大臣のチャイチャノック氏が事業推進を主導する。AIスキル研修も全国展開、タイ政府の「2年でAIユーザー1,000万人」目標の中核ピースとなる。
TH-AI Passport、5百万人に1年間プレミアムAI無料
TH-AI Passportは、タイ国民5百万人がChatGPT、Claude、Geminiといった海外大手の生成AIサービスを「プレミアム機能」付きで1年間無料利用できる、国家規模のAI普及プログラム。通常はChatGPT Plus(月20米ドル)、Claude Pro(月20米ドル)、Gemini Advanced(月20米ドル)などのプレミアム購読料は個人にとって負担となるが、政府がまとめてライセンス契約を結び、国民に配布する形となる。
提供される機能は、テキスト生成(高度な対話・文章作成)、画像生成(Midjourney等)、コード生成、文書要約、翻訳、データ分析など、業務・教育・個人利用のあらゆる分野をカバー。1人あたり年間20,000バーツ相当(約92,000円)のサービスが、5百万人分配布される計算。
中央ダッシュボードでAIツール選択、6月登録開始
登録方法は、TH-AI Passportの公式ウェブサイトまたは専用アプリ。タイ国民IDカード(บัตรประชาชน)で本人認証し、希望するAIツールを中央ダッシュボードから選択する。ユーザーは複数のAIサービスを試して、自分の用途に合うものを選べる柔軟性が確保されている。
スケジュールは2026年6月から登録開始、5百万人の枠が埋まり次第終了。タイ助けタイプラスと同様、初日の登録ラッシュが予想される。
予算16.21億バーツ、ONDESC+MDES主導
事業の予算は16.21億バーツ(約74億円)。タイ国家デジタル経済社会委員会事務局(ONDESC / สำนักงานคณะกรรมการดิจิทัลเพื่อเศรษฐกิจและสังคมแห่งชาติ / สดช.)が予算管理と運営を担当し、MDES(デジタル経済社会省)が政策統括を行う。MDES大臣のチャイチャノック・ジュテーパーンチャイ氏(นายไชยชนก)が、本プログラムの推進キーパーソン。
AIスキル研修を全国展開、人材育成と並行
TH-AI Passportは単なるツール配布ではなく、付帯プログラムとしてAIスキル研修を全国で展開する。タイ政府の中期目標は以下の通り。
これらの目標達成のため、地方大学・職業訓練校・コミュニティセンターでのワークショップ、オンライン無料学習プラットフォームの提供、企業向けAI導入支援などが並行で進められる。
アセアンAIハブを目指すタイ、政府全体のデジタル変革
タイ政府は、自国を「アセアンのAIハブ」と位置付ける長期戦略を打ち出しており、TH-AI Passportはその柱の一つ。MDESは、2026年内に全省庁の完全デジタル変革を目標とし、行政手続のオンライン化、AI業務処理導入、政府機関のデータ連携を加速している。バンコクの主要銀行・通信キャリア・小売大手も、AIを活用した業務効率化と顧客サービス向上を実装中。
「外国製AIに16.21億B」批判の声
一方、社会的にはTH-AI Passportに対する批判の声も上がっている。タイ経済新聞のThansettakij、PostTodayなどが「16.21億バーツを外国製AIに使うのは妥当か」「タイ国産AIへの投資の方が長期的に有益では」と論考を掲載。具体的には以下のような疑問が議論されている。
- ChatGPT(OpenAI、米国)、Claude(Anthropic、米国)、Gemini(Google、米国)、Midjourney(米国)など、すべて海外大手企業の製品
- タイ国内のAIスタートアップ・大学研究機関の研究開発投資が後回しになる懸念
- ライセンス料がそのまま米国企業に流れる構造
- データ主権・プライバシー保護の観点(タイ国民の利用データが海外サーバーで処理される)
これらの議論は、デジタル経済の進展と国家主権・産業育成のバランスをどう取るかという、より大きな政策論点と結びついている。
デジタルインクルージョン、5百万人へのAIアクセス機会
批判の一方で、5百万人へのAIアクセス機会拡大は「デジタルインクルージョン(Digital Inclusion)」として評価される側面もある。タイ国内で月20米ドル(約720バーツ)を毎月支払ってAIプレミアムを購読できる層は限定的で、地方在住者・中小企業従業員・学生・農業従事者などにとって、プレミアム機能は手の届かない存在だった。TH-AI Passportはこの格差を埋める政策として、教育・職業訓練・地方経済活性化への波及効果が期待される。
在留邦人にも関心、登録対象の確認待ち
在タイ日本人のうち、タイ国民IDカード保有者(永住権・タイ国籍取得者・タイ人配偶者の子等)にとっては、TH-AI Passport登録の対象となる可能性が高い。一方、就労ビザ・退職ビザ・観光ビザで滞在する大多数の在留邦人は、登録対象外となる見込み。具体的な対象要件は、登録開始時のONDESC公式案内で確認する必要がある。日系企業のタイ人スタッフがTH-AI Passportを業務で活用するパターンも想定され、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略にも影響が及ぶ可能性がある。

