タイ特別捜査局(DSI / Department of Special Investigation / กรมสอบสวนคดีพิเศษ)は2026年5月25日、コサムイ島(スラタニ県)・コパガン島(スラタニ県)・プーケット島の高級ヴィラ売買事案で、外国人ノミニー(名義借り)スキームを使った疑いがある31人全員を裁判所に送致(起訴)した。本件は5月13日から始まったタイ政府の組織的取締りキャンペーンの中核で、コサムイ・コパガンで34企業の調査からスタートし、5月23日の第2段階作戦で21人の外国人容疑者を逮捕、38の土地証書(推定200百万バーツ = 2億バーツ)を押収していた。今回の31人起訴は、捜査が起訴・刑事訴追段階まで進んだことを示すマイルストーン。タイ政府は今後、第3段階としてプーケット・クラビ・パンガー・パタヤ・フアヒンへの取締り拡大を予告しており、タイの観光地不動産市場で「外国人実質所有・タイ人名義人」スキームを使ってきた事業者に大きな衝撃を与えている。
DSI、31人を裁判所送致で正式起訴
DSI(タイ特別捜査局)は5月25日、コパガン島の外国人ノミニーヴィラ事件で身柄拘束していた31人を、調書(สำนวน / case file)とともに裁判所に送致した。これは事案の刑事訴追手続きが本格化するマイルストーンで、捜査段階から公判段階への移行を意味する。送致された31人は、外国人事業法(Foreign Business Act 1999)違反、土地法違反、関連刑事罪状で起訴される見通し。
第1段階: 5/13から34企業調査開始
事案の発端は2026年5月13日。DSIとDBD(商務省企業開発局)が合同で、コサムイ島・コパガン島(スラタニ県)に登録される34社の企業を対象に、外国人ノミニー疑惑の調査を開始した。対象企業は不動産、ホテル、ヴィラ運営、観光関連サービスなど。
調査の手法は、企業登記の株主構成、土地所有権、ヴィラの実質的支配者・運営者、家族・関係者ネットワークを総合的に追跡するもの。タイ政府は、コロナ後の観光地不動産バブル化と、無届けエアビーアンドビー型短期賃貸事業者の急増を、深刻な経済課題と位置付けてきた。
第2段階: 5/23作戦で21人逮捕、土地証書38件・2億B押収
5月23日にはDSI+警察が大規模合同作戦を実施した。コパガン島の主要不動産案件を一斉に捜索し、外国人容疑者21人を逮捕。同時に、ヴィラ・土地に関連する土地証書(โฉนดที่ดิน / land title deed)38件を押収した。押収された土地証書の合計推定価値は200百万バーツ(2億バーツ、約9億2,000万円)。
関連62容疑者、21件のアクティブ案件
DSIの中間発表によると、本事案に関連する容疑者は計62人に達し、21件のアクティブな苦情案件が同時並行で進行中。容疑者には外国人だけでなく、ノミニーとして名義人を提供したタイ人、不動産仲介業者、法律事務所スタッフ、行政機関の関与可能性のある人物も含まれている。
アヌティン首相、5/14にコパガン視察、68%が外国人関与
タイのアヌティン首相は5月14日にコパガン島を視察し、ノミニー摘発キャンペーンの状況を確認した。視察時のDSI報告によると、調査対象34社のうち約68%(約23社)に外国人関与が確認されたとのこと。これは、観光地での「外国人実質所有・タイ人名義」スキームが、想定以上に広範囲に蔓延していることを示すデータとなった。
第3段階予告: プーケット・クラビ・パンガー・パタヤ・フアヒンへ拡大
DSIは、第1段階(コサムイ・コパガン)・第2段階(コパガン拡大)に続く第3段階として、以下のエリアへの取締り拡大を予告している。
- プーケット島(タイ南部の主要観光リゾート)
- クラビ県(南部ビーチリゾート)
- パンガー県(プーケット隣のリゾートエリア)
- パタヤ(東部チョンブリ県の主要観光都市)
- フアヒン(プラチュアプキリカン県の宮廷リゾート都市)
これらはタイの主要観光地で、外国人投資家・退職者・長期滞在者が集中するエリアとして知られる。第3段階の捜査が本格化すれば、調査対象は数百社規模に拡大する可能性がある。
外国人事業法、外国人多数株主所有を制限
タイの外国人事業法(พระราชบัญญัติการประกอบธุรกิจของคนต่างด้าว พ.ศ.2542 / Foreign Business Act 1999)は、特定の事業領域(リスト1: 全面禁止、リスト2: 国家治安/文化、リスト3: タイ人の競争力に影響)で、外国人が50%以上を所有することを制限している。土地所有もタイ国内では原則として外国人不可で、外国人が実質的に不動産を所有するには、コンドミニアム49%枠購入、長期賃貸契約、タイ人名義での購入(=ノミニースキーム)などの手法が必要となる。
ノミニースキームは、外国人(実質所有者)が信頼するタイ人を株主・名義人に立てる構造で、表面上はタイ人所有・タイ人運営、実質は外国人所有・外国人運営という二重構造を生む。本来は外国人事業法違反となるグレー領域で、タイ政府は近年、観光地での蔓延を「経済主権の侵害」「税収逃避」「治安リスク」と位置付けて取締りを強化してきた。
在留邦人不動産購入、合法スキームで対応を
タイで不動産を購入したい在留邦人にとって、本事案は重要な警告として受け止めるべき内容。タイの不動産購入は、コンドミニアム49%枠、長期賃貸契約(30年+30年+30年の更新オプション)、合法的なBOI誘致企業の設立など、複数の合法スキームが存在する。一方、「タイ人友人や配偶者の名義で不動産を購入」というノミニースキームは、法的にグレー〜違法で、本事案のように摘発・没収・刑事訴追のリスクがある。
不動産購入を検討する在留邦人は、必ずタイの法律事務所、認定不動産仲介業者を通じて、合法スキームでの取引を確認することが推奨される。
観光地不動産バブル、コロナ後の構造変化
タイの観光地不動産は、コロナ前から外国人需要で価格が上昇していたが、コロナ後の海外渡航再開と、エアビーアンドビー・短期賃貸プラットフォームの普及で、さらに加熱した。コパガン島・コサムイ島では、ヴィラ1棟1,000万バーツ〜1億バーツ(約4,600万円〜4.6億円)のレンジで、外国人投資家が集中投資する状況が続いていた。プーケットでは、より高価格帯のラグジュアリーヴィラが、同様のノミニースキームで取引される事例も報告されている。

