タイ国家感染症委員会が2026年5月15日、ハンタウイルス感染症を「危険感染症」に正式指定する決定を下した。指定により、感染症法(2015年)に基づく強制隔離・追跡・国境スクリーニングなど、政府の防疫権限が一段強化される。濃厚接触者は最大42日間の隔離対象となる。タイ国内ではまだ感染者ゼロだが、国際クルーズ船での集団感染と南米での流行を受けて先手を打った形だ。在タイ日本人にとっても、医療制度・空港検疫・南米旅行歴がある来訪者への対応が変わるため知っておきたい。
「危険感染症」指定で強制隔離・追跡が可能に
タイの感染症法(Communicable Disease Act 2015)は、危険感染症(Dangerous Communicable Disease)に指定された疾患について、政府に強い権限を与える。具体的には、(1)濃厚接触者の強制隔離、(2)感染ルートの追跡、(3)国境スクリーニングの法的義務化、(4)違反者への罰則適用などだ。5月8日に感染症委員会が「指定の研究」を承認し、5月15日に正式指定を発令した。今後、新型コロナやmpoxと同じ枠組みでハンタウイルス対策が動く。
42日隔離の根拠と対象
濃厚接触者の隔離期間は最大42日。これは国際クルーズ船MV Hondiusで発生したハンタウイルス集団感染への国際的な対応で採用された基準が参考になっている。同船の乗船客は、米国・豪州で約3週間の医療施設待機を経て、残り期間を42日まで延長して経過観察する措置がとられた。タイの新指定でも、南米13カ国(チリ・アルゼンチン・ペルーなど)からの渡航者で疑わしい症状がある人や、確定患者との濃厚接触者は最大42日間の隔離対象になる。
タイ国内感染者ゼロ、南米渡航者470人をスクリーニング済み
タイ国内では5月15日時点で感染者ゼロ。ただし保健省は5月9日から国際空港で南米13カ国からの旅行者を対象にスクリーニングを開始しており、累計470人を検査、1日平均157人ペースで進めている。これまでに疑い症例は確認されていない。検査対象は「過去6週間以内に南米13カ国に滞在した旅行者」で、症状がある場合は隔離・検査に進む流れだ。
ハンタウイルスの感染経路と症状
ハンタウイルスはげっ歯類(ネズミ)の排泄物・尿・唾液を介して人に感染する。直接的な人から人への感染は限定的だが、肺症候群(HPS)を発症すると致死率が30〜50%にもなる致命的なウイルスだ。発症初期は発熱・筋肉痛・倦怠感など普通のインフルエンザに似た症状で、数日後に急速に呼吸困難が進行する。タイで懸念されるのは、南米から帰国した観光客・ビジネス渡航者を経由した「輸入感染」のシナリオで、危険感染症指定は早期発見と封じ込めのための法的バックボーンとなる。
関連背景
南米からタイへ帰国・渡航する駐在員家族・ビジネスパーソンは、過去6週間以内に南米13カ国に滞在歴がある場合、空港スクリーニングの対象になる可能性が高い。発熱・呼吸器症状がある場合は早めに医療機関を受診し、渡航歴を申告するのが現実的だ。タイの民間病院(BNH・バンコク病院・サミティベート等)でも、危険感染症指定により対応プロトコルが更新される。子連れ家族で南米経由のフライトを利用する際は、検疫所での申告書記入が増える可能性がある。

