タイのデジタル経済社会省(DE)と公衆衛生省疾病対策局(DDC)が共同で5月11日、「タイ国内のコウモリから新型コロナウイルスの新系統が検出された」とする情報を「真の情報(事実)」として正式確認した。一方で、ヒトへの感染例は現時点でゼロ、新系統の病原性と伝播性はCOVID-19より低く、既存のCOVID-19ワクチンも重症化を軽減できると評価。流行リスクは「低い」と公表した。野生動物・人間・環境を一体監視する「One Health」アプローチでの早期検出例だ。
検出は、タイ国内の野生動物疾病サーベイランス(One Health surveillance)の枠組みで行われた。「One Health」は、人間の健康・動物の健康・環境の健康を相互に関連する一つの生態系として捉え、感染症を発生源段階で監視・抑制する世界的な公衆衛生アプローチ。タイ政府は2020年のCOVID-19パンデミック以降、コウモリ・齧歯類・野鳥などの野生動物からのウイルス検査体制を強化してきた。
新系統について政府は3つの重要なポイントを強調した。第一に、ヒトへの感染例はゼロ。タイ国内でも国外でも、この新系統に感染したと確認された人間の症例は今のところ報告されていない。第二に、ウイルスの病原性(病気を引き起こす能力)と伝播性(人から人にうつる能力)は、いずれもCOVID-19より明確に低いと評価される。第三に、既存のCOVID-19ワクチン(mRNA・組換タンパク・不活化等)は、新系統に対しても重症化を防ぐ効果が期待される。
これらの評価から、タイ政府は「現時点での流行リスクは低い」と判断。一般市民に対しては、(1)通常の手指衛生の継続、(2)野生動物(特にコウモリ)への直接接触を避ける、(3)コウモリの糞・尿が散乱する洞窟・古い建物の清掃時はマスク・手袋着用を徹底する、を呼びかけている。
虚偽情報への注意も呼びかけられた。タイのアンチ・フェイクニュース・センター(AFNC)は5月9日、関連投稿16万397件をスクリーニングし、そのうち8,714件が事実確認を要する誤情報・誇張情報の可能性ありと判定。これらには「すでにヒト感染が起きている」「新たなロックダウンが来る」「特定地域でアウトブレイクが発生している」などの虚偽内容が含まれる。
タイ政府の対応は、5月8-10日に発表された一連のハンタウイルス監視強化と並行する。チュラロンコン大学のヤン教授も、ハンタウイルスについて「タイで40-50年前から共存してきた在来株、Andes株とは別系統」として冷静対応を呼びかけていた経緯がある。新興感染症全般に対するタイの監視・情報発信体制は、COVID-19以降に大きく強化された。
タイ在住の日本人駐在員家族にとっては、SNS上の「コウモリで新型コロナ」という見出しだけで過度な不安を持つ必要はない。ヒト感染ゼロ+COVID-19より弱毒性+既存ワクチン有効、という3条件が確認されている限りにおいて、追加の予防行動は通常の手指衛生・体調管理・必要時のマスク着用で十分。一方で、洞窟ツアー・古い寺院・農村部の長期滞在では、コウモリの糞尿との接触リスクには相応の警戒が必要となる。