タイ刑事裁判所が5月1日、月間50億バーツの取引額を誇った大規模オンラインカジノ決済ネットワークの運営者、フ(フー)・ナロドム・ピリヤランサン(33歳)に対し懲役132年の有罪判決を言い渡した。罪状はオンラインカジノ運営とマネーロンダリングで、複数の犯罪を合算した法定累積年数となっている。
ナロドム氏はタイの著名な元上院議員サンシット・ピリヤランサン氏の息子。父サンシットは大学教授・汚職研究の論客として知られる人物で、息子の事件はタイ社会に大きな衝撃を与えてきた。タイで「ハイソ(ハイソサエティ)」と呼ばれる上流社会の若手実業家として活動し、Heng Pay社のディレクターを務め、Askmepayと並ぶ決済システム「ヘンペイ」の所有者だった。
ナロドム氏は2024年7月、警察庁技術犯罪抑止局(CCIB)の捜査で逮捕されていた。当時の押収物は4億バーツ相当の資産で、フェラーリ296 GTS、アストンマーティン・ヴァンテージ・ロードスター、レクサス、スバルの高級車4台、コンピュータ、ノートパソコン、携帯電話14台、銀行通帳21冊、ATMカード53枚など、典型的な富豪のライフスタイルを物語る品々が並んだ。
決済ネットワーク自体は約4年間運営されており、Askmepay/Heng Payの名称で違法オンライン賭博サイトとの間の入出金を仲介していた。月間取引額は約50億バーツ(約2,500億円)と当局が見立て、4年間の累計では数千億バーツ規模に達する見込みだ。共犯のスヌーク・ナラユット・ケーオ氏(39歳)も同時期に逮捕されている。
タイのオンラインカジノは法的に違法だが、海外サーバー経由のサイトに国内決済システムでアクセスするユーザーが多数存在し、警察は近年、決済の入口側を遮断する戦略を取っている。今回の132年判決は、決済ネットワーク運営者個人への厳罰として近年最大級。元上院議員の息子という社会的属性も含めて、「タイの司法は権力者の親族にも厳格に対応する」というメッセージとして広く受け止められている。
タイ政府は2025年からカジノ法案(複合エンターテインメント施設の合法化案)を閣議で議論し続けており、世論の反発で度々棚上げになってきた。違法オンラインカジノの摘発と合法カジノ法案の議論が並走する中、こうした厳罰判決が今後の法整備の方向性に影響を与える可能性がある。
在タイ日本人にとっては、SNSやチャットアプリで誘導される違法ギャンブルサイトに不用意に手を出すと、決済を仲介した運営側だけでなく、入金・出金を行った利用者本人も摘発・処罰の対象になり得る、という警告の意味も持つ判決だ。とくにバンコクの繁華街では、SNSやLINEで「友達紹介で初回入金分上乗せ」といった勧誘が日本人コミュニティ内に流れることもあり、距離を取る判断が安全といえる。