タイ政府が打ち出した「ドリアン1個100バーツ激安ライブ販売」をめぐり、農家と経済学者から反対の声が広がっている。スパチー・スタンマパン副首相兼商務大臣がタイの人気インフルエンサー「ピムリーパイ」と組み、近日中に100万個目標のライブコマースを実施する計画。ところが減産期に低価格情報を流すことで、ドリアン農家の卸売価格が押し下げられる懸念が出ている。
商務省の説明によれば、対象はジャンタブリ県の農家から直接仕入れるB級・等外品のドリアンで、目的は国内消費の刺激と農家支援だという。ライブを担当するピムリーパイは、農産物のライブ販売で大量売却の実績を持つインフルエンサー。今回は1個100バーツでの販売を予告した。
これに対し、経済学者デチャラット・スワンガムニッド氏は副首相への公開コメントで「意図は良いが、シグナルの出し方を誤っている」と批判した。相場より大幅に安い価格設定は、たとえ等外品であっても卸売市場の参考価格を引き下げる圧力になり、結果として正規品ドリアンの値段交渉にも使われかねないとの指摘である。
特に問題視されているのはタイミングだ。今は減産期で、ドリアン農家は季節初期にいくらか高めの価格を期待してコスト回収を計算する時期にあたる。ここで「1個100バーツ」というメッセージが拡散すれば、買付業者が値下げ交渉の材料に使うリスクがある。タイ国内のドリアン平均生産コストは1キロあたり70バーツが目安とされ、4キロ前後の1個なら数百バーツが採算ラインの目安となる。
野党側からも「1キロ120バーツの卸売価格を1個100バーツまで引き下げるのは農家支援なのか、政治コンテンツなのか」と皮肉が飛んだ。デチャラット氏は、商品ごと・時期ごと・対象農家ごとに異なる戦略が必要だと指摘し、商務省が持つ農業カレンダーを活用した綿密な事前協議を求めている。日本人の感覚では「副首相が直々にインフルエンサーと組んで激安ライブを打つ」発想自体が驚きだが、世界最大級のドリアン輸出国であるタイにとっては、市場価格の維持と国内消費の刺激という2つの目標が綱引きになるテーマである。