タイ南部パッタルン県シーナカリン郡で、村長(カムナン)が住民のカブトムシを盗んだ疑いをかけた28歳男性を自宅から強制連行し、マンゴー樹に縛り上げて赤アリの巣を頭に叩きつけるなど、4時間以上にわたって拷問する事件が発覚した。被害男性の母親が4月26日にシーナカリン警察署に告発、村長は2件の罪状で立件された。
警察と被害者家族の説明によれば、事件は4月25日深夜に起きた。村長は自宅で就寝中のスティープ氏(28、姓は非公開)を強制連行し、後ろ手に手錠をかけたうえで自宅前のマンゴー樹に縛りつけた。顔を2回ビンタして両目が青紫色に腫れ、さらに1回蹴ったうえで、用意した赤アリの巣4箱のうち3箱を頭に叩きつけ、1箱を傍らに置いた。被害男性は4時間以上、噛まれ続ける状態で拘束された。
村長は「住民が飼育する甲虫を盗んだという防犯カメラ映像がある」と主張していた。しかし被害男性は「ビニール袋を取りに行っただけで、実際には盗んでいない」と説明、甲虫の所有者も被害届を出していないと報じられている。
事件発覚後、村長は地区行政の関係者を伴って被害者宅を訪れ、賠償金支払いと引き換えに告発取り下げを打診したが、被害男性の母親(49)は「私刑は法の支配に反する」として拒否、刑事手続きを徹底する方針を示した。シーナカリン警察署が手錠の取り外しを支援したという。
タイの「カムナン」は郡内の集落をまとめる地方公務員で、住民間紛争や犯罪疑いに介入する場面も多く、地域社会で強い影響力を持つ。今回の事件はSNSでも広く拡散し、地方権力による私刑への批判が集中している。
タイで「ด้วง」と呼ばれる甲虫類は、闘虫文化や食用として一定の流通があり、地域によっては高値で取引されることもある。所有権争いから4時間に及ぶ赤アリ拷問にまで発展した今回の経緯は、地方の慣習的処断と司法手続きとの境界線が依然として曖昧な現実を映している。