タイ南部パンガー県のパームヤシ農園で、古い井戸を清掃しようと降りた男性4人が相次いで意識を失い、死亡する事故が起きた。地元防災当局は酸素欠乏か硫化水素などの蓄積した毒ガスが原因とみて調査している。閉鎖空間で2人ずつ「救助の連鎖」が発生する典型的なパターンだった。
事故の通報は4月26日午前11時30分。場所はパンガー県クラブリ郡クラ副区バーン・センタム村のパームヤシ農園内にある深さ約6メートルの井戸である。
死亡したのはスートン・コンケオさん42歳、スッタットさん34歳、ティーラドン・チュアサーンさん30歳、ワハブ・チュアサーンさん51歳の4人。地元住民で、姓を見るに少なくとも2人は親族の関係にある。
地元当局が現場で再構成した経過によると、まず住民2人が井戸内の清掃のために降り、ほどなく意識を失ったという。地上の仲間が異変に気づき、救助のために続けて4人が井戸に降りたが、うち2人がさらに意識を失って死亡。5人目はロープで合図を送り引き上げられ、最後に降りた救助隊員も間一髪で地上に戻された。降りた人ほぼ全員が倒れる、という連鎖が起きていたことになる。
当局はこの井戸が「ここ数年使われずに放置されていた」点に注目している。底に長期間かけて蓄積された有機物が嫌気的に分解されると、硫化水素が発生し、同時に酸素濃度も大気の21%から致死域まで低下する。専門装備のない者が降りれば数秒で意識を失う。今回の井戸は深さ6メートルと比較的浅いが、それでも空気の入れ替わりがほとんどない構造だった。
タイでは閉鎖空間での酸素欠乏事故が農村部や工事現場で繰り返されている。チャイナット県では水田の井戸(深さ10メートル)に夫婦で落ちて2人とも死亡する事故もあった。日本でも下水道や貯水槽、サイロでの同種事故は労働災害の典型例で、酸素濃度計とエアラインマスクの装備、進入前の換気が大原則とされる。タイ労働省も同様の指針を出してはいるものの、農村部の生活井戸はそうした手順の外にある。
死亡した4人はムスリムで、家族はイスラムの慣習により遺体の写真撮影を拒否した。当局は「換気の悪い閉鎖空間に装備なしで降りない」「最初に倒れた人を見たら絶対に救助で降りず、消防に通報する」と注意を呼びかけている。
