タイ南部ナラティワート県のカモンサック・リーワーマー下院議員(Prachachat党)が3月20日に自宅前で銃撃された事件で、議員本人が4月26日、バーチョー警察署に対し新たに2人を雇い主として告訴した。告訴対象は地域で現役勤務する軍の中佐モントリー・トープラサートと、姓を伏せた少佐デチョー。先に書いた元海兵ウィロチ大尉の自白とISOC車両借用に続く新たな展開で、捜査の矛先がさらに上層へ向かったことになる。
捜査当局は既に実行犯側の5人を逮捕済みで、現在尋問を進めている。今回告訴された2人については「証拠が本人と結びつくほどに固まれば、逮捕状を発行する」と説明している。雇い主としての関与が立証されれば、現役軍人2人が下院議員襲撃を指示した、というタイの民主政治史上で例のない事態に発展する可能性がある。
同じ4月26日、ソンクラー県パッタニーのプリンス・オブ・ソンクラー大学パッタニー校で開かれたPrachachat党の年次大会で、党首のタウィー・ソートソン氏が事件への踏み込んだ発言をした。「実行を担った5人より大きな黒幕がいる。これは個人への攻撃ではなく、政党への破壊行為だ」と述べ、科学的証拠が黒幕の存在を裏付けていると主張した。
タウィー氏は続けて、カモンサック議員が法律と人権分野の専門家として活動してきたことに触れ、「党としてここで終わらせるわけにはいかない。最後まで追いきれなければ、国民は司法プロセスへの信頼を失う」と述べた。プラチャチャット党は深南部出身議員を中心とする政党で、3州(ナラティワート・パッタニー・ヤラー)で根強い支持基盤を持っている。
事件そのものは3月20日にナラティワート県バーチョー郡で発生した。議員所有のバンが自宅前で戦争用武器による乱射を受け、議員本人は不在だったが車体が大破した。実行犯グループは事件後、ISOC(国内安全保障作戦司令部)名義の車両を移動に使っていたとされ、4月23日には元海兵隊大尉が自白に転じた経緯がある。
深南部の治安問題は分離独立派による襲撃事件として扱われてきたが、今回の事件は構図が逆になる。被害者が深南部選出で人権擁護を主軸に活動してきた議員、加害者として浮上したのが地域勤務の現役軍人2人、というラインだからだ。捜査の進展次第では、深南部の軍と政治家の関係そのものが問われる局面に進む。
警察は2人の身柄拘束を急いでおらず、証拠固めを優先する構え。次の節目は逮捕状の発行有無で、捜査関係者は「数週間以内」と見ている。