タイ東部スケオ県アランプラテート郡の国境地帯で4月26日、特別作戦部隊と国境警備兵が、カンボジア側から運ばれてきたグレーの大箱に入った抗不安薬アルプラゾラム約10万錠を押収した。タイで「ヤースィアサオ」(女性を駄目にする薬の通称)として性犯罪に悪用されるレイプドラッグの代表格で、運搬役の男2人は警察隊を見て箱を投げ捨てカンボジア側へ走り去った。観光地での性犯罪リスクを下げる上で重要な押収となる。
事件はアランプラテート特別作戦部隊と第12タハーンプラーン連隊1206中隊の合同パトロール中に発生した。場所はクロンナームサイ副区バーン・ヌーンソムブーン村12、国境を画する用水路(クロンナームサイ)から約10メートル内側、JT-O 48-49検問所の中間地点だ。タイとカンボジアを隔てる用水路を渡って入ってくる密輸ルートは長年問題視されており、夜間パトロールが続けられていた。
部隊が国境の死角で2人組を発見した時、男たちはグレーの大箱を背負って既に越境しタイ側10メートル地点を歩いていた。警察隊の姿に気付いた瞬間、2人は箱を地面に投げ捨て一目散にカンボジア側に走り去った。用水路を越えれば管轄外、というこのエリアの国境特有の構図がそのまま現れた形だ。
捨て置かれた箱を開けると、アルプラゾラム0.5mg錠剤が大量に詰まっていた。確認できた銘柄は「Axprazol 0.5mg」が480箱、「Asolan 0.5mg」が同等量で、合計するとほぼ10万錠規模になる。アルプラゾラムは医療用で抗不安薬・睡眠導入剤として処方される向精神薬だが、タイの法律では「向精神薬第2類」に区分され、無許可の輸入・所持・販売は薬物取締法違反として処罰される。
問題は流通先だ。タイのナイトライフでは、観光客や女性客の飲み物にこの種の薬を混入し意識を奪う性犯罪が継続的に報告されている。タイ警察と保健省は2023年から取り締まりを強化してきたが、医薬品としての正規ルートが限られた0.5mg錠剤がブラックマーケットに大量供給されている背景には、カンボジア・ミャンマー国境からの密輸が常に存在する。今回押収された箱2個は、バンコクやパタヤのバーやナイトクラブにそのまま流れ込んでいた可能性が高い。
スケオ県アランプラテート郡は陸路でカンボジアに繋がるロンクルア国境市場で知られ、観光客が日帰りでカジノを訪れるルートとしても使われる。この地点を起点にタイ国内へ流入する不法物資は薬物だけでなく密入国労働者も含み、警察と国軍が常駐パトロールを敷いている。今日同じ地域では、別件でカンボジア人労働者18人が密入国で摘発される動きも続いている。
タイ警察は逃走した運び屋2人について、防犯カメラ映像と通信記録から追跡を続ける。実際にはカンボジア側に渡った時点で身柄拘束は困難で、組織の上層に切り込めるかは情報共有次第になる。レイプドラッグ流通網の上流が中国・カンボジア経由なのか、ミャンマー経由なのかを把握することが次のステップだ。
在タイ日本人女性、特にバンコク・パタヤ・プーケット・チェンマイのナイトライフを訪れる旅行者・駐在員にとって、飲み物から目を離さない、知らない人からの差し入れを受けない、グラスにフィルムカバーを使う、というドリンクスポイク対策の基本は変わらない。今回の押収量はあくまで氷山の一角で、流通量の多さの裏返しでもある。