タイ南部トラン県で、揚げ物系の料理に欠かせない業務用パーム油の価格が1箱(18リットル相当)860バーツから1,040バーツに急上昇し、屋台や食堂の経営者の悲鳴が相次いでいる。1箱あたり180バーツ、率にして21%近い値上げで、半年の間に確実に上がり続けてきた動きが、この1〜2週間で一段とはっきりした形だ。
取材に応じたのは、トランの市場で揚げ虫を売るウライ・シエンソーンさん。店先に並ぶのは、ダング(コガネムシの幼虫)、ダクデー(蚕のさなぎ)、ジンリート(コオロギ)、サディン(ハチの子)など、タイ南部の郷土おやつとしておなじみのラインナップだ。
1日に使うパーム油は約3リットル。1箱18リットル換算で6日に1箱を消費している計算になる。これまでは原料コストとして160バーツ弱、今は200バーツ弱。1日の売上が1,000バーツのウライさんにとって、日々の利益を削る額だ。
値上げの背景にあるのは、中東情勢の不安定化に伴う世界の植物油市場全体の強含みと、パーム油の生産側の収穫期のズレだ。タイ国内でもパーム農家が「2026年4月に入ってからの産地価格下落」で抗議活動をした一方で、加工されて小売のボトルや業務用の箱に入ると価格が上がるという逆転現象が起きている。
ウライさんは「政府には経済を早く立て直してほしい、最低賃金も物価に合わせて上げてほしい」と語った。揚げ物系の屋台は売価を簡単に動かせない。揚げ虫1カップ20〜40バーツで売るこの市場では、5バーツの値上げだけでも客離れが起きるシビアな価格帯だからだ。
タイ駐在の日本人にも、観光で屋台を巡る機会やフードデリバリーで注文する機会に、同じ構造が見えている。「値段据え置きで量が減った」「油で揚げているはずのメニューがオーブン焼きに切り替わった」といった変化があれば、その裏にパーム油のこの値上げがある可能性が高い。
タイ政府は内国取引局を通じて、パーム油ボトルの大手6社に対し「値上げ前の事前通告」を義務付ける形で圧力をかけており、業務用の箱詰めについても介入のタイミングを探っている。屋台経営者と一般世帯のダブルショックをどこまで抑え込めるかが、5月以降の物価政策の試金石になりそうだ。