タイ上院の経済・金融・財政政策委員会が付加価値税(VAT)を現行の7%から段階的に10%へ引き上げる案を示した件をめぐり、タイ国内で賛否が割れている。俳優のチュン・アーチェン・アイドゥンがXで「日本のように上げるなら、福祉も日本並みに近づけてほしい」と書き込み、若い世代の共感を集めた。
上院委員会の提案は、VATを1年ごとに1ポイントずつ、3年かけて10%まで引き上げるという段階方式だ。この方式だと年間2,000億〜3,000億バーツの税収増が見込まれ、うち3%分を高齢者貯蓄スキームに回して月額手当を現在の600バーツ前後から3,000バーツまで引き上げる構想がセットになっている。公的債務が2028年にGDPの69.78%まで膨らみ、法定上限の70%に迫るという試算が背景にある。
これに対しチュンは「税が上がる=生活が良くなるのであって、ただ払う額が増えるだけでは困る」とXに投稿した。共有したニュースでは、上院が翌日の会議で提案を議題に上げると報じていた。
アヌティン首相率いる政府の与党プーミー・タイ党副党首シリポン氏は「今後2〜3年以内にVATを7%から10%に引き上げる計画はない」と早々に打ち消した。景気の立て直しが先決で、負担増を国民に求める段階ではないという立場だ。上院側も社会的な混乱を避けるため、税制改革に関する勧告的研究を取り下げている。
タイのVATは1992年の導入時から7%で運用されてきた。法律上の本来の税率は10%だが、毎年の勅令で7%への減額が繰り返されてきた経緯がある。現在の7%運用は2026年9月30日まで内閣が延長を決定しており、それ以降については議論の火種が残ったままだ。
日本のVAT(消費税)は2019年10月に10%へ引き上げられた。タイが同水準にそろえるかどうかは一見シンプルな数字の問題に見えるが、医療・年金・失業保険の整備水準が大きく違うため、単純比較はできない。タイの公的医療は30バーツ制度で加入者に無料に近いサービスを提供する一方、年金制度の老後所得の置換率は先進国に比べて低い。
在住日本人にとっては、食品やレストランから電気代、日用品まで幅広くVATが乗る生活環境のなかで、増税は家計の可処分所得に直結する。タイ定住を考える世代では、増税と老後の生活保障の両にらみで、タイ版「負担と受益」の議論を注視しておく必要がある。